ヒトの脳回構造への遺伝子の影響:ウィリアムズ症候群の脳溝形態計測



Genetic contributions to human gyrification: sulcal morphometry in Williams syndrome.

Kippenhan JS, Olsen RK, Mervis CB, Morris CA, Kohn P, Meyer-Lindenberg A, Berman KF.
National Institute of Mental Health, National Institutes of Health, Department of Health and Human Services, Bethesda, Maryland 20892, USA. shane_kippenhan@nih.gov
J Neurosci. 2005 Aug 24;25(34):7840-6.

脳回や脳溝のパターンは遺伝の影響が非常に強く、発達過程で密接な順序コントロール下におかれているが、異常な脳回構造や機能に影響を与える特定の遺伝子についてはほとんど知られていない。ウィリアムズ症候群は7q11.23領域の染色体の半接合欠失を原因とする遺伝子病であり、脳構造の異常や著しい認知(視空間構造に関する障害)や行動(過度の社会性や不安)表現型を特徴としており、これらの問題を研究するためにユニークな機会を提供してくれる。我々はウィリアムズ症候群の被験者、及び年齢や性別と知能指数を一致させた正常な対照群からから得られた高解像度MRI画像による皮質表面形状データを解析して脳溝の深さを詳細に計測し、体積素(Voxel)を対象とした形態計測結果について両グループの差異分析を行った。分析の結果、ウィリアムズ症候群被験者の脳内の頭頂間溝/後頭・頭頂溝(intraparietal/occipitoparietal sulcus (PS))において両側とも脳溝深さの減少が判明した。左半球の側副溝や眼窩前頭皮質領域でも同様である。ウィリアムズ症候群グループにおける左半球のPSの平均値は対照群より8.5mm浅かった。PSにおける脳溝の深さに関する知見は、同領域の灰白質体積の減少値とよく一致しており、灰白質体積の減少と異常な脳溝の構造が関連している証拠となる可能性がある。この皮質領域において機能的な変質が見られることを発見した従来の神経機能イメージ検査の内容を考えあわせると、我々の検査結果は、ウィリアムズ症候群における視覚情報構築障害の前提となる神経の抹消表現型(endophenotype)を規定している可能性がある。さらに特定の遺伝子の効果を同定する段階につながり、皮質における脳回構造につながる遺伝子メカニズムにつながる洞察を提供するかもしれない。

(2005年8月)



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