ウイリアムス症候群の脳の生化学: 認知における小脳の役割に関する証拠



Brain biochemistry in Williams syndrome:
evidence for a role of the cerebellum in cognition?

Rae C, Karmiloff-Smith A, Lee MA, Dixon RM, Grant J, Blamire AM, Thompson CH, Styles P, Radda GK
MRC Biochemical and Clinical Magnetic Resonance Unit, John Radcliffe Hospital, Oxford, UK.
Neurology 1998 Jul;51(1):33-40

目的:
ウイリアムス症候群(WS)の脳ではどのような生化学的変化が発生しているか、また これらの変化が認知障害に関連しているかどうかをつきとめる。
背景:
ウイリアムス症候群は、まれに発生する先天的障害で、よく知られた認知障害とと もに特徴のある身体的・言語的・行動的表現型を示す。
方法:
ウイリアムス症候群の患者14人(年齢は8〜37才)と同年代の対照群48人の 前頭葉・頭頂葉(領域でのリンに対する核磁気共鳴スペクトル(31P magnetic resonance spectra = 31P MRS)を測定した。左側の小脳部位(27 cm3)の水素に対する核磁気共鳴 スペクトル(1H MRS)を測定し、ウイリアムス症候群のグループと、実年齢と性別が一 致する正常な対照群との比較を行った。この1H MRS は被験者全員が一連の認知テスト を受けながら測定された。
結果:
ウイリアムス症候群の脳は、明らかな生化学的異常を示した。燐酸モノエステル(PME) の極大値を含む 全 31P MRS 比は、ウイリアムス症候群で変化が見られ、PMEの顕著な 減少を示していた。コリン(choline)含有化合物とクレアチン(creatine)含有化合物の Nアセチルアスパラギン酸(N-acetylaspartate)に対する比率(Cho/NA と Cre/NA) は、 ウイリアムス症候群の小脳では対照群と比較してかなり高くなっている。一方で、 Cho/Cre の比率は変化が見られない。つまり、小脳における神経指標(neuronal marker) Nアセチルアスパラギン酸が減少していることを示している。小脳内におけるCho/NA と Cre/NA の比率と、言語性IQ・動作性IQ・British Picture Vocabulary Scale・Ravens Progressive Matrices and Inspection Time等の様々な神経心理テストの全員の成績と の間に有意な相関が見られる。
結論:
この相関は次の2通りの解釈が考えられる。
  1. 今回の小脳における生化学測定サンプルは、脳全体の生化学反応を反映しており、 小脳の機能とは無関係である。
  2. この相関は、種々の認知テストを遂行する能力には小脳の神経的完全性が必要(発 達段階においても、実際の処理においても)であることを示している。
(1998年8月)



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