ウィリアムズ症候群における異常な社会的認知と神経の関係
この論文についてはBBC Newsによる解説記事も出ていましたので合わせて紹介します。解説記事の原文はここを参照してください。
(2005年12月)
−=−−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
Neural correlates of genetically abnormal social cognition in Williams syndrome.
Meyer-Lindenberg A, Hariri AR, Munoz KE, Mervis CB, Mattay VS, Morris CA, Berman KF.
Section on Integrative Neuroimaging, National Institute of Mental Health, National Institutes of Health, Department of Health and Human Services, Bethesda, Maryland 20892, USA. andreasml@nih.gov
Nat Neurosci. 2005 Aug;8(8):991-3. Epub 2005 Jul 10.
ウィリアムズ症候群は染色体7q11.23にあるおよそ21個の遺伝子の微小欠失が原因であり、非社会的な不安の亢進と超社交性が混ざり合った独特な性格を特徴とする。機能的神経イメージ造影法により正常な対照群に比べると、ウィリアムズ症候群においては恐ろしい顔を見た場合には扁桃体の活動は減少するが、恐ろしい場面を見た場合には増加することが判明した。扁桃体と連結している前頭前野、特に眼窩前頭皮質の活性化と相互作用が異常であり、これはヒトの社会的行動を調節している神経回路網を遺伝子が制御している可能性を示唆している。
−=−−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
超社交性を示す脳内の手がかりが見つかった
Over-friendly brain clues found
BBC News;Last Updated: Sunday, 10 July, 2005, 23:34 GMT 00:34 UK
超社交性を示す特定の人々の脳で何が起こっているかに関する手がかりを科学者が発見した。アメリカ精神保健研究所の専門家はヒトに異常な超社交性を起こさせる脳の違いを発見した。研究者はスキャン装置を用いて恐ろしい顔を見たときに正しく働かない部分を特定した。Nature Neuroscienceに掲載された論文によれば、他の人々の社会的障害を理解する手がかりを提供できると述べている。
「怖い顔」
ウィリアムズ症候群の人々は第7染色体から約21個の遺伝子が欠けている。恐怖心が欠けているため、彼らはたとえ見知らぬ人とでも社会的関係を積極的に結ぶ。しかし、彼らは蜘蛛や雷など人間的な恐怖ではないものへの不安を高じさせる。この病気は25000人に1人の発生率である。アメリカの研究チームは、社会的行動を調節していると考えられている脳の奥深くあるアーモンド型をした扁桃体に注目した。機能的MRI(functional Magnetic Resonance Imaging)を使って13人のウィリアムズ症候群患者と13人の健康なボランティアの脳を検査した。全員に怒った顔や怖い顔の写真を見せた。健康な被験者の脳はそのような写真を見た場合に扁桃体に強い反応が現れる。しかし、機能的MRIの測定結果によればウィリアムズ症候群の被験者の扁桃体にはそれほどの活動は現れなかった。次に被験者達は飛行記事故などの怖い場面の写真を見せられるが、そこには人の顔は映っていない。ウィリアムズ症候群の被験者の扁桃体には異常に高い反応が見られた。
「うまく統制できない」
研究者達は脳の前部にある前頭前野において、この症候群の患者では正常に働かない重要な部分を3箇所発見した。それらは、相互関係を司る社会的目標を確立し維持する部分である背側部分(dorsolateral area)、感情移入に関係し負の感情を調節する内側部分(medial area)、状況に対して感情的評価を与える眼窩前頭領域(orbitofrontal region)である。アメリカ精神保健研究所の責任者であるトーマス・インゼル(Thomas Insel)は、「社会的交流は人間の経験と健康を維持するための中心的事象ですが、精神医学疾病においては影響を受けています」と言う。「これは遺伝子病によって引き起こされる異常な社会的行動に関連する脳の活動経路の機能的障害を初めて同定した研究です。」
目次に戻る