ウィリアムズ症候群の視覚認知機能:神経心理学的及び神経生理学的検討
稲垣真澄1), 堀口寿広1), 加我牧子1), 山本俊至2)
1)国立精神・神経センター 精神保健研究所 知的障害部
2)神奈川県立こども医療センター 遺伝科
日本小児神経学会総会プログラム・抄録集46(2004年7月15日-17日)S321ページ
【目的】
ウィリアムズ症候群(WS)では様々な視覚認知機能障害が指摘されているが、詳細な解析は乏しい。今回我々は12歳女児のWSに対して神経心理学及び神経生理学的検討を加えたので報告する。
【症例】
在胎42週に帝王切開で出生。生直後から哺乳不良があり、乳児期に筋緊張低下、体重増加不良。つかまり立ち1歳半で、2歳までに独歩可能となった。言語発達は良好(1歳半で有意語30以上)。幼児期より掃除機音に聴覚過敏あり。11歳児のElastin遺伝子領域FISH法で、WSと診断された。体格は小柄で、口唇がやや厚い特徴顔貌。心奇形なし。両側の橈尺骨癒合、両手第1-3指伸展制限あり。神経学的に眼球運動失行を認めた。
【成績】
1) WISC-IIIによるFIQ=55(V=74,P=44)、Raven色彩マトリシス検査は低値(16/36)。視覚と運動の協応は悪くFrostig視知覚指数は低下(PQ=52)していた。立方体透視図の模写は不可能で、Rey複雑図形模写も極めて不良(7.5/36)。標準高次視知覚検査で線分の傾きが判断できず、錯綜図の認知は反応が遅延していた。また、見た目の大きさや陰影による立体視の生じ方が特異であった。一部の錯視図で錯視が得られなかった。生理学研究所金桶吉起博士作成の運動視認知検査で、コヒーレンス50〜5%での正答率が健常対照よりも低下していた。WAB失語症検査で失語症指数は標準域(AQ=93)で、構音にも異常なし。
2) 事象関連電位mismatch negativityはTB、言語音ともに正常範囲であり、聴覚オドボール課題によるP300は頂点潜時420〜640ミリ秒と遅延し、振幅低下も認めた。漢字および図形刺激による視覚課題の弁別は可能であり、P300潜時600〜700ミリ秒であった。
【結論】
本児は線の傾きや角度の認知困難から視空間の認知と再構成が困難であると推測され、空間的な見当識と運動視認知機能の低下もあった。事象関連電位検査でも視覚系課題での異常が目立ち、神経心理学的結果を支持した。
(2006年5月)
目次に戻る