多角的脳機能測定法による「顔」情報処理特性の検討:発達障害児における研究
資料番号3−9−129の基礎となる研究と思われます。
(2006年8月)
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渡邉 昌子(生理学研究所・助手)、中村 みほ(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
文部科学省特定領域研究 第一領域 平成17年度 成果報告書・発表論文リスト
【背景及び目的】
「顔」情報処理機能を検討することは、高次視覚情報処理機能にとどまらず、人間の社会的な発達過程を知る手がかりとなる。本研究課題の最終目標は、脳磁図・脳波、行動実験という多角的な手段を用いて顔情報処理特性の発達過程を調べ、またそれをもとに小児の脳機能発達評価に役立つ研究手法を開発していくことである。
【今年度の成果】
今年度は主に2つの実験を行った。
1 児童期・少年期の顔特異的誘発電位測定
発達障害児評価の対照として必要な健常児での誘発電位の測定を行い、安定してデータがとれる条件を検討していった。4歳から15歳、約150名の協力を得て実験を行い、健常児にとって適切な実験環境を設定し今後発達障害児に対して応用可能な環境を検討した。ほぼ全ての被験者で明瞭な誘発電位を測定でき、幼児期から10歳ごろまでの間に2つの誘発成分が出現し、その後成人のパターンへ変化していく過程が観察できた。国内でこれだけ多数のデータを集めた例は少なく顔情報処理の発達過程を検討する上でも大きな意義があると考えている。
2 ウィリアムズ症候群(WMS)患者を対象として脳磁場測定により顔刺激誘発脳活動を検討した。現在数例のWMS患者及び同年齢の健常者でデータを測定し解析を進めている段階であるが、健常者で観察される電気生理学的な倒立顔効果がWMS患者では明らかでないことが確認できた。今年度はまず一例における結果を論文として報告している。脳磁場では詳細な記録がとれるが個人差が大きいため、今後例数を増やしまた健常対照者の誘発脳磁場検査もさらに行い検討していく必要がある。
【今後の展望】
本年度は目標に向けての最初の段階として基礎データの蓄積と実験手法の確立を行っていった。これを元に今後は発達障害児を対象として同様の誘発脳波検査を施行し、また行動実験を同時に実施し誘発電位の反映している脳内の活動について検討していく予定である。脳波検査と行動実験を多数の被験者で実施しながら大規模なデータ収集に適した手法を検討し、発達障害児に特徴的な所見を検討し機能評価へつながる道としたい。さらに並行して、脳磁図などの手法を併用しつつ詳細な検討を進めることも進めていきたい。患者さんの協力が得られた場合は、脳磁図をはじめ詳細な検査を行い成人や同年齢健常者と対比させながら綿密な検討を行っていきたい。特にWMSでの誘発脳磁図実験は徐々にデータが集まってきており、今後まとめて報告したいと考えている。
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