ウィリアムズ症候群児における言語の媒介機能の特徴
― 碁石配列課題とカテゴリ記憶課題による検討 ―
篠原 麻葉、雲井 未歓、内田 芳夫
鹿児島大学教育学部
日本特殊教育学会 第44回大会発表論文集(2006年9月)566ページ
【目的】
ウィリアムズ症候群(以下WS)は知能に発達の遅れを伴う一方、極めて高い言語能力を有することから、言語のモジュール性を示す症例として注目されてきた。しかしながら、語用論的誤りや抽象的語彙及び比喩の理解困難も指摘されることから、WSでは、聴覚的語彙が豊富な一方、それらの機能化には困難があることが推測される。言語の機能には、語用論以外に行動調整や概念形成における媒介機能があげられる。また、これらはが外言の使用により促進されることが知られているが、WS児の特徴については明らかにされていない。WS児において、多数の聴覚的語彙を有することが媒介機能の促進要因になることを確かめることができれば、この点を考慮した支援について考察することができる。そこで本研究では、WS児1名を対象として、行動調整と概念機能の特徴と明らかにする。行動調整は碁石配列課題において検討し、色名の表出と配列行動の関係を分析する。概念機能は分類課題の困難を考慮し、絵カードによるカテゴリ記憶課題の特徴を検討する。これらにより、WS児における言語の媒介機能の発達的特徴と支援の要因について考察することを目的とした。
【方法】
- 対象 養護学校小学部に在籍するWS児1名
- 手続き
@ 碁石配列課題は白と黒の碁石を交互に配列する対象課題とした。検査者が見本を示し、対象児に模倣を促した。その後、見本のない状態での配列を支持した。その後、碁石の色名の言語化を伴わせた。白黒3セット以上の配列を正反応とした。10セッションを1クールとして、計3クール行った。
A カテゴリ記憶課題は、食べ物・乗り物・動物の各カテゴリについて、絵カードによる3項目の記憶課題とした。1クールと3クールでは、検査者が、3枚の絵カードを順次提示し、ネーミングを行った。その後、カードを隠して、「何がでてきた?」と尋ねた。2クールめについては、援助条件として、位置手がかりを利用できるようにした。具体的には、カードのネーミング後、対象児の前に1枚ずつ並べ、位置をヒントに、尋ねられた絵カードを回答させた。いずれも3項目すべて再生できた場合に正反応とした。
【結果・考察】
図1(省略。以下図について同様)は碁石配列課題の成績の変化を示した。1クールは10セッションの平均を示す。第1、第2クールの平均正反応率は焼く10%であったのに対し、第3クールでは35%に増加した。破線は課題遂行時に対象児が色名を言った場合である。三角で示すように、碁石の色と、発話される色名とが不一致(白黒以外の「アカ」「アオ」を含む)であった場合は、第2クール以降で減少した。それに伴い、ひし形で示すように、正しい色名の表出が増加した。これらの結果から、碁石配列課題では、正しい色名の表出が可能になった後に、正反応の増加が生じたことを指摘できる。これは、色の表象の獲得を基礎として碁石配列課題での行動調整機能が促進されたことを示す結果といえる、
カテゴリ記憶課題については、図2のように、第3クールでの正反応率が、第1クールと比べて、明瞭に増加した(F(1,22)=3.462, p=.07)。また、第2クールについては折れ線で示したように、位置手がかりを用いる条件で、正反応率が増加の傾向を示した(相関係数 0.74, p<.05)。これより、対象児では、位置手がかりの利用が、カテゴリ記憶課題での成績に効果を及ぼしたことが考えられる。対象児は事前の検査で、単純な数唱課題のスパンが2であり、物を数えたり、指示された数の事物を取り出したりすることが困難であった。この点を考え合わせると、対象児において、表象が獲得された語でのカテゴリ機能は記憶しやすいことが推測される。また、対象児にとって命名可能な事物とそうでない事物とでは表象のレベルが異なり、対象機能が獲得された事物を中心に、概念の拡張が生じやすい可能性を指摘できる。
本研究の結果、WSの特異的な聴覚音声能力の高さが、言語による行動調整機能や概念機能の促進要因となり得ることが示唆された。特に、表象の獲得に伴い、種々の機能が獲得された点から、対象児にとって意味理解が可能な語を特定し、それを中心とした指導が必要と考えられた。また、そのような後を増加させるための支援も必要であり、この点も含めて今後検討する必要があると考えられた。
(2007年8月)
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