社会的行動の神経形成メカニズム



"Neurogenetic mechanisms of social behavior"

第8回 冬のワークショップ(2008年1月9日-11日)
「社会行動との脳機構」
「脳と心のメカニズム」ワークショップ
Andreas Meyer-Lindenberg

ヒトを含めた霊長類が幸せに生存するためには社会的相互関係に大きく依存でしている。そして社会的行動の障害は自閉症や統合失調症や不安障害などの疾病の主要な症状の一つである。しかし、ヒトの社会脳を形作る神経生物学的要素はほとんど解明されていない。社会的機能の多くの要素に高度な遺伝性があることから、我々はヒトの社会的認知機能について分子レベルやシステムレベルのメカニズムを同定する遺伝子的アプローチを採用した。顕著な超社会性を呈する遺伝子疾患であるウィリアムズ症候群の研究から、遺伝子の制御下にある社会的恐怖の神経基質としての扁桃体による前頭前野制御異常が発見されている。研究によれば、性格や情動に影響を与える遺伝子多型(5-HTTLPR, MAOA vNTR)候補は、同じような回路網に影響を与えているらしい。動物においては、オキシトシンとバソプレッシン(oxytocin and vasopressin)が複合的な情動や社会的行動の主要な媒介物となって、不安感を減らし恐怖をあたえる状況や死滅状態に影響を与えている。最近になってヒトにオキシトシンを投与すると信頼感が高まることが発見された。これは、恐怖や社会的認知を司る中枢神経系要素であり、多くの哺乳類でオキシトシン受容体が行動に発現して、信頼感を司る扁桃体が関係していることを示唆している。今回我々は健康な被験者を対象として機能的神経画像を用いた研究内容を報告する。オキシトシンあるいはプラセボを投与された男性の場合、オキシトシンは扁桃体の活動を強力に押さえ込み、恐怖を表す行動表現や自律神経系に影響を与える脳幹領域と扁桃体の結びつきを弱める。画像を使った遺伝子研究によって、遺伝子変異がバソプレッシン受容体(AVPR1A)やオキシトシン受容体(OXTR)に与える特徴的な影響を明らかにしたので報告する。これらの受容体は自閉症になるリスクや情動の調整や社会的行動に関係する脳の機能や構造に関連している。これらを総合すると、この研究結果はヒトの脳における社会的認知の神経メカニズムの存在を示唆し、療育的利用の可能性も考えられる。

(2008年2月)



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