小児科医のための遺伝学 自閉症の遺伝
高橋兼一郎 (昭和大 医 小児科学), 高橋兼一郎, 久保田健夫 (山梨大 大学院医学工学総合研究部 環境遺伝医学)
小児内科:ISSN:0385-6305:Vol.40, No.8, Page1346-1349 (2008.08.01)
自閉症を呈する小児疾患としてはまず挙げられるのはDown症候群である。Down症候群患児のうち自閉症を発症する割合は1-10%と推定され,自閉症のうちDown症候群患児が占める割合は0-16.7%とされている。結節性硬化症,神経線維腫症,Williams症候群などにも自閉症を認める患児が存在する。近年,シナプスにおいて様々な分子が働いていることが明らかにされ,シナプスの足場蛋白質,伝達物質を受けるシナプス受容体,神経細胞接着分子などの蛋白質の異常が自閉症の原因となっていることが分かってきた。具体的には,シナプス機能に関わるLIMK1遺伝子の欠失,神経細胞接着因子NLGN3遺伝子変異,足場蛋白質SHANK3の遺伝子変異などである。エピジェネティクとは,DNAや染色体ヒストン蛋白質上で化学修飾を介して行われている遺伝子調節するメカニズムを指す。これまでエピジェネティクス機構の異常で生ずる先天性異常症が多数報告され,このうち数種が自閉症を呈するものであった。自閉症には遺伝的要因と環境的要因の両方が想定されている。自閉症の遺伝に関する親への説明について簡単に記述した。
(2008年12月)
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