WILLIAMS症候群患児の精神発達面からの検討
中村みほ、原 幸一、西村辮作、熊谷俊幸1、松本昭子1、三浦清邦1、山中勗2、早川知恵美2
1中央病院小児神経科、2中央病院小児内科
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所年報26号(平成9年度):1998年9月発行
Williams症候群は7番染色体長腕の微細な欠失を伴う隣接遺伝子症候群であり、エラスチン遺伝子、視覚認知に関わるLIMK-1遺伝子等の欠失が証明されている。近年、IQに比して比較的言語の表出が豊富であること、視空間認知機能の特徴的な障害を来すことなど、認知能力のばらつきが指摘されているが、本邦では本疾患に対する精神発達面、神経心理面からの検討が少ない。我々は、将来的な社会適応を視野に入れた療育のためには正確な病態の把握が必須であると考え、本研究に取り組んでいる。具体的には、特徴的な臨床症状(大動脈弁上部狭窄、妖精様顔貌、精神発達遅滞等)らWilliams症候群と診断された児について、神経学的診察ならびに検査、心理、言語検査(WISC-R、ITPA、FROSTIC視知覚検査、K-ABC、S-S法言語発達遅滞検査)を施行した。 その結果、現在までに、 1)Williams症候群の特徴的な能力間のばらつきを検出するのには、K-ABCが特に有用かつ臨床場面での利用に適当と思われること、 2)言語については、語彙は豊富であり、かつ使用頻度の低い単語などの表出があるが、semantic及びpragmaticな問題は必ずしも少なくないこと、 3)視空間認知に関連して、漢字の(読字は可能であるにもかかわらず)書字において、各構造(偏とつくりなど)の配列ができないなどの症状を示す場合がある。これは、従来指摘されてこなかった点であり、療育場面での考慮が必要と考えられることなどの知見が得られた。 今後症例を増やし、また画像診断による脳の構造ならびに機能との関連にも研究を進めていきたい。
我々は、精神発達遅滞児の診療ならびに療育においては、「遅れのある子」とひとくくりにして考えるのでなく、それぞれの疾患による特徴を的確に把握することが第一歩であると考えている。このような視点から、現在、さらに別の症候群等についても検討を開始している。またそのプレリミナルスタディとして前言語段階のコミュニケーション能力を測るESCS(Early Social Communication Scales)を健常乳幼児に適用し、有用性を検討中である。
(2009年1月)
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