ウィリアムズ症候群における視空間認知能力と漢字写字の発達
中村 みほ1)、水野 誠司2)、熊谷 俊幸2)、松本 昭子1)
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 1)
愛知県心身障害者コロニー中央病院 2)
愛知県心身障害者コロニーこばと学園 3)
脳と発達 第40巻 総会号 S315ページ(2008年4月)
ウィリアムズ症候群(以下WS)は認知能力のばらつきが大きく、視空間認知の能力が劣ることがその特徴として挙げられており、それは視覚認知の中でも背側経路にかかわる機能の不全によるとされている。本研究においてはこれまでのWS患者に対する縦断的な臨床的観察をまとめることにより、“catch upする機能”と“catch upしない機能”を明確にし、本症候群患者が継続的に持つ障害を明らかにすることで背側経路の障害の本態により迫ることを目指した。従来、WS患者は平面の図形においても、その細かい構成要素には着目し模写が可能であるが、大まかな形を捉えて模写することが苦手であり(local tendency)、その傾向が漢字模写にも影響していることが報告されている。しかしながら今回の検討で、平面図形の模写は経時的な改善が認められること、それに伴い漢字模写課題にも改善を認めることなどが明らかとなった。また経過の中で、一時的にglobal tendency(細かい構成要素よりも大まかな形に着目する傾向)を示す、一例もみとめた。一方、3次元図形の模写に関しては必ずしも改善を認めず、特に、立方体の透視図においては全例で改善を認めなかった。また、Benson block test、Yerker block testなどにおいても特徴的なつまずきを示した。以上、local tendencyの障害としてでは必ずしも本症候群の病態を説明しきれないこと、本症候群における視空間認知障害として少なくとも参加者の現時点までの発達において改善されにくい項目として、3次元の認知にかかわる問題があることが明らかとなった。これは本症候群の障害の本態と責任部位の同定の上で重要な所見であると考えられた。
(2010年1月)
目次に戻る