図形の欠所補完課題におけるエラー:Williams症候群と健常児の比較群
永井 知代子1)、岩田 誠2)
科学技術振興機構 ERATO 浅田共創知能システムプロジェクト1)
東京女子医科大学神経内科2)
第33回 日本神経心理学会総会 プログラム予稿集 113ページ(2009年9月)
【背景】
幼児の模写訓練として、見本図形を見ながら未完成の模写の足りない部分を補って完成する欠所補完がある。Williams症候群(WS)は模写障害が顕著な発達障害疾患であるが、その障害は健常発達が5-6歳レベルで停止した状態であるという説がある。そこで、この欠所補完ではWSと健常5-6歳児(TD)とで誤り方が同じなのかを調べた。
【対象と方法】
対象はWS10人(18.1±8.8歳、IQ45±8.0、M:F=5:5)とTD8人(5.6±0.5歳、M:F=2:6)。左に見本図形、右に未完成模写を呈示し、足りない部分(図形構成線の約1/2)を補い模写を完成するよう教示する。見本図形は三角形・正方形・菱形・五角形・六角形・凹を含む多角形・波線交差・ジグザク交差の8種類である。図形細部が正しく構成され見本図形や未完成図形上への書き込み(トレース型closing-in現象:CIP)がない場合に正解とした(総得点8)。また各群におけるi)CIP ii)閉合(凸部を作らずに端点を結ぶ) iii)細部不正確(辺の長さ・角度・凸部のエラー)の比率と比較した。
【結果と考察】
平均点はWS1.2±1.2、TD3.1±2.0で、WSが有意に低かった(p<.05)。図形別では、両群とも正方形・三角形が良好で菱形・ジグザグ交差・六角形が不良という共通パターンが見られたが、波線交差がWSでは相対的に良好だった。エラー率はWSがi)0.24 ii)0.26 iii)0.33 、TDがi)0.03 ii)0.11 iii)0.48 で、i)CIPのみがWSで有意に多かった(p<.01)。以上より、WSは全体として5-6歳児と同様のパターンであるが、描画能力はより低く、CIPが多い・波線交差が良好など、一部異なる点も見られた。欠部補完は通常の模写に比べ模写空間決定を要さない分、描画計画に制約がかかる。WSではこの制約をうまく活かして描画する能力に問題があると考えられた。
(2010年2月)
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