ウィリアムズ症候群と脆弱X症候群における社会的認知(social cognition)と遺伝的要因の関係



Hoeft Fumiko
スタンフォード大学医学部・脳科学研究センター
第33回 日本神経心理学会総会 プログラム予稿集 35ページ(2009年9月)

脆弱X症候群(fragile X syndrome)やウィリアムズ症候群(Williams syndrome)などのように、原因遺伝子が同定されていて、かつ特徴ある認知・行動プロフィールを示す発達障害は、認知・行動に対する遺伝子の影響をボトムアップに研究するために適しており、近年注目を集めている。脆弱X症候群とウィリアムズ症候群はいずれも社会性の異常を特徴としているが、そのプロフィールは対照的である。脆弱X症候群はX染色体の異常に起因し、発達障害としては最も頻度の高い疾患で、社会不安や回避行動など、コミュニケーションの異常を特徴とし、社会的な交流の減少を認める。脆弱X症候群は単一遺伝子を原因とする自閉症の中では最も多くを占め、脆弱X症候群の5-60%において自閉症の診断がつくといわれている。一方、ウィリアムズ症候群は、ヒト7番染色体の7q11.23領域の欠失が原因の稀な疾患で、社交性、感情移入、相貌認知機能に優れ、表出言語が流暢であることを特徴とする。また、ウィリアムズ症候群は‘hypersocial’とも形容され、共感応力が一般人よりも優れているとさえいわれている。このようにソーシャルフェノタイプが対極にあるともいえる二疾患の、機能および構造画像研究結果を我々のセンターを中心に報告をし、このような神経科学研究が、社会認知における遺伝子・脳・行動の関係を理解する上で、いかに重要であるかについて考えてみたい。また、これらの研究から得られた結果をもとに開発している治療の紹介も行う予定である。

(2010年2月)

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(2010年12月)


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長峯 正典1)、三村 將2)、リース アラン3)、ヘイフト 典子3)
1) 自衛隊福岡病院精神科
2) 昭和大学医学部精神医学教室
3) スタンフォード大学医学部脳科学研究所
神経心理学 26(2):104-117、2010


「社会認知」にアプローチするひとつの方法として、この問題を中核とする発達障害を対象に、認知神経科学的アプローチを中心に包括的に検討する手法が挙げられる。ウィリアムズ症候群は、心血管奇形や精神発達遅滞の症状を呈すると同時に、過度な社交性を呈することで近年注目を集めている隣接遺伝子症候群である。一方、脆弱X症候群は発達障害を呈すると同時に、自閉症と類似の症状を呈することで近年注目されており、やはり遺伝的要因の特定されている疾患である。発達障害の社会的認知の問題をターゲットとした臨床研究では疾患の不均質性がしばしば問題となるが、原因遺伝子が明確となっているウィリアムズ症候群や脆弱X症候群を研究することにより、より均質な対象の研究が可能となる。本稿では社交性という観点において対照的な症状を呈するこの両疾患について概観し、社会的認知の神経基盤について現時点での知見を総括した。



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