ウィリアムズ症候群における幾何的再配置の障害



この記事は下記論文に関して米国のウィリアムズ症候群協会の会報に掲載されたものです。

Impaired geometric reorientation caused by genetic defect.

Lakusta L, Dessalegn B, Landau B.
Department of Psychology, Montclair State University, Montclair, NJ 07043, USA.
lakustal@mail.montclair.edu
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Feb 16;107(7):2813-7. Epub 2010 Feb 4.

(2010年5月)

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Impaired geometric reorientation in Williams Syndrome

“Heart to Heart” April 2010、page 4-5

自分が置かれた環境内に適合することはヒトや動物における空間認知機能の基礎的要素です。数多くの論文で、ヒトの成人や幼児・ネズミ・ひよこ・魚などが面やその交線の長さなど身の回りの環境の幾何的表象を再構成することで再配置を実現しています。この再配置システムの発達が特定の遺伝子やその遺伝子の活動が脳の発達にあたえる影響に依存しているのでしょうか? ウィリアムズ症候群患者を対象にして再配置能力を検査したところ、長方形の部屋においては面の特徴情報が欠けていることがわかりました。ウィリアムズ症候群の人は位置を特定する際に部屋の幾何学的特長を利用できず、隠された物を探しだせません。この失敗状況はウィリアムズ症候群の患者でもっと一般的にみられる視空間ワーキングメモリーの障害では説明できません。同じ被験者が再配置に失敗しない状況において同様の課題を完璧にこなすからです。我々は壁の一面だけを青く塗った長方形の部屋においてはウィリアムズ症候群被験者の成績が向上することを発見しました。ウィリアムズ症候群患者の一部の人は青い壁という特徴を利用して隠された物を探しだしていると考えられます。この結果は、ヒトにおける再配置に用いられる幾何システムが、特定の遺伝子や神経の異常によって選択的に障害を受けていることを示しています。

我々の研究結果は、配置の幾何的表象を利用して構成する課題に失敗するという、基本的な再構成課題におけるウィリアムズ症候群患者の重度の障害パターンを明らかにしました。壁の一面だけを青く塗ると少し成績がよくなるが、全壁面が黒い部屋では美味くできないことから、配置における幾何的特徴を利用してある特定の壁面を示す表象を認識できないようです。さらに、一壁面だけが青い部屋の中においてさえ、被験者は普通とは異なるメカニズム、すなわち正しいコーナーを決める際に視点依存表象を利用している可能性があります。

増え始めた実験結果によれば、再配置機能を支える表象の神経基盤は海馬とその周辺にあることを示唆しています。しかし、ウィリアムズ症候群の患者における海馬の障害は、ウィリアムズ症候群で障害があると判明している頭頂部からの異常な神経信号の入力だけが原因ではないようにみえます。画像検査を使った研究によれば、人の顔でも馬でも、すなわち脳の腹側を多く使うかと背側を使うかの違いがあっても、正常範囲の知能を有するウィリアムズ症候群の患者においては海馬領域を同じく活性化します。機能画像検査において、特に前部海馬領域においてみられる活性化レベルの障害、安静時血流の低下、異常に低い文法的活性化などが、この領域における神経に機能的障害があることを示唆している。この可能性は、ウィリアムズ症候群をモデルとする遺伝子改変マウスの海馬神経に構造的異常があるという研究と整合しています。このマウスは進路決定にも異常を示します。このノックアウトマウスの進路決定に関する研究結果をウィリアムズ症候群患者における進路決定と比較することで、遺伝子と脳の発達と空間表象の間の関連に関する新たな知見が得られる可能性があります。

つまり、我々の発見はヒトの再配置能力に含まれる幾何システムを司る神経系の特殊性と一致しており、このシステムの本質や他の生物種との間の連続性に関する知識を増やすことにつながります。このシステムがモジュール性であるか、多くの相互関連性のある手がかりの利用に依存しているかにかかわらず、遺伝子の異常の影響を受ける頭頂部や海馬の障害が空間的に配置された幾何的表象を利用して構成する能力を失うことにつながっていることを示しています。ここで発見された神経の特殊性は、ヒトや動物における空間内の再配置に関する特徴的な容量を説明する理論の構築に重要な役割をはたします。



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