ウィリアムズ症候群の子どもたちの聴覚パターン認識:予備的発見



1996年7月になって初めて、ウィリアムズ症候群の人々が普通ではない音楽的才能を 持っているという両親や音楽教師達の逸話的観察を支持する学術論文が書かれた。このテ ーマで書かれた2つの論文は、1996年7月25日にフィラデルフィアの近くで開催さ れたウィリアムズ症候群国際専門家会議で発表された。

Auditory Pattern Perception in Children with Williams Syndrome (WS): Preliminary Findings.

Audrey Don, Department of Psychology, University of Windsor,
Windsor Ontario N9B 3P4, Canada

ウィリアムズ症候群の子どもたちは、空間視能力が極端に劣っている反面、言語能力 は比較的保存されているという独特の神経心理学的プロフィールを持っている。逸話的観 察によれば、これらの子どもたちは音楽的能力も比較的保存されており、一般的には聴覚 パターン処理を比較的うまく行っていることを暗示していると思われる。本研究は、ウィ リアムズ症候群の子どもたちの言語・音楽・空間視能力に関する標準的検査結果を調査し た。

方法:
実験参加者は8歳から13歳までのウィリアムズ症候群の子どもたち10人(平均10 歳10ヶ月、標準偏差1歳10ヶ月)で、ウィリアムズ症候群協会の会合や会報を通じ て参加を募った。子どもたちは個別に2回のテストを受けた。次のような検査を行った: WISC-III、Peabody Picture Vocabulary Test-Revised (PPVT-R), Auditory Closure Test (AC), Controlled Oral Word Association Test, Sentence Memory Test, and the Tonal and Rhythm subtests of Gordon's Primary Measures of Music Audiation (PMMA) (1986)。 PMMAのサブテストにおいて、子どもたちは2つの短い旋律やリズムの断片の弁別を求め られた。

結果:
WISC-IIIの言語理解(VC)と認知編成(Perceptual Organization (PO))要素の平均スコア を比較した。この子どもたちの成績は最低レベルに近い値であったが、ペアT検定の結 果では、これまでの知見と同じく言語理解が高く(平均=61.1、標準偏差=9.5)、認知編 成が低い(平均=51.4、標準偏差=3.7)という結果が得られた[t(9)=4.63、P<0.001]。個々 の分析の結果、PPVT-R 結果 (平均= 68.3, 標準偏差 = 17.1) と WISC-III Full Scale IQ (平均=50, 標準偏差 =7.3)の間には有意な差が見られ、これらの子どもたちの言語能力 が比較的優れていることを裏付けている[t(9)=4.427, p < 0.002]。詳細な分析によれば、 言語テスト結果には、ある部分では処理に要求される複雑さに対応した階層が存在して いることが示された。例えば、音素に分解された単語パターンを認識するための容量を 必要とする最も簡単なテスト(AC)では、得点(平均=基準値より標準偏差の0.6倍低い, 標 準偏差=0.95)はその年齢の基準値に近い。一方、最も複雑なテスト(VC)では平均を標準 偏差の2.6倍下回った。言語能力と音楽能力を比較する為に、PMMAの原得点をPPVT-R年 齢相当のセンタイルランクに変換した。PMMAの音素(Tonal)センタイルとリズムセンタ イルランクは、PPVT-R年齢から予想されるレベルであった。音素平均得点とリズム平均 得点は、それぞれ68パーセンタイル(標準偏差=24.6)と48パーセンタイル(標準偏 差=26.7)であった。音素得点とリズム得点の間には明白な差は認められなかった。

論点:
これらの予備的分析は、ウィリアムズ症候群の子どもたちの音楽的能力は比較的保存さ れた言語能力と釣合っており、基本的聴覚パターン分析能力は損なわれていないが、さ らに複雑な言語能力はそれほど維持されていないことを暗示する初期データを提供して いる。さらに、これらの分析は、これまでに論じられてきた認知プロフィール、すなわ ちウィリアムズ症候群の子どもたちは極度に貧弱な空間視能力に比べて比較的維持され ている単純言語能力を持っている、を支持している。詳細な結論とこの研究の意味はこ の会議で議論されるであろう。

(1999年6月)

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