Williams症候群を通して社会脳(social brain)を探る
長峯 正典1)、三村 將2)、リース アラン3)、ヘイフト 典子3)
1) 自衛隊福岡病院精神科
2) 昭和大学医学部精神医学教室
3) スタンフォード大学医学部脳科学研究所
Brain and Nerve 62(8):877-884、2010
はじめに
近年の脳科学の著しい進歩に伴い、“社会脳(social brain)”という言葉をよく耳にするようになった。この言葉は、自己と他者を認識し、対人交流を可能とするのに必要な社会的情報処理に特化した脳の神経基盤として使用されている。
社会脳の障害とされる自閉症は、社会脳研究の中心に位置する疾患であるが、その原因遺伝子および神経基盤についてはいまだ十分に解明されてはいない。その大きな理由として、自閉症という疾患の不均質性(heterogeneity)が挙げられるが、それに加え遺伝子型(genotype)や表現型(phenotype)までの距離の遠さが考えられる。社会性というわれわれの表現型と比較すると、それを支える脳の神経基盤は遺伝子からより直接的な影響を受けていると考えられており、感受性も高いとされている。したがって、脳の神経基盤や神経活動をgenotypeからphenotypeへの中間表現形と位置づけることによって、遺伝子と高次機能の関係性をより詳細に調べることができる。
Williams症候群(Williams syndrome)は、心血管系か精神発達遅滞などの症状を呈する遺伝子疾患であると同時に、過剰な社交性(hypersociability)を呈するということが近年注目されている。Hypersociabilityという特異な症状を示すこの遺伝子疾患を研究することで、自閉症という疾患が抱える不均質性の問題を克服することができ、社会性の神経基盤に関する貴重な情報を手に入れることができる。
本稿ではこの特徴ある遺伝子疾患について概観し、特にhyper sociabilityに注目することによって、社会脳の神経基盤について考えてみたいと思う。
T Williams症候群
U Williams症候群の認知的特性
V Williams症候群の性格特性
W Williams症候群の脳構造研究
X Williams症候群の脳機能画像研究
Y Williams症候群と遺伝子
Z Williams症候群と社会脳
おわりに
(2010年12月)
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