ウィリアムズ症候群における神経発達と認知機能:遺伝学と病態生理学を理解することで治療につなげる
Neurodevelopment and Cognition in Williams-Beuren syndrome : Understanding Genetics and Pathophysiology to inform Treatment
A meeting sponsored the Williams Syndrome Association and hosted by the Allen Institute for Brain Science
“Heart to Heart” February, 2011 Pgae 4-5
バーバラ R. ポーバー医学博士(Barbara R. Pober, MD)
2010年10月に、ウィリアムズ症候群の発達や脳機能の最新情報を交換するために科学者や医学専門家が一堂に会して1日半のワークショップが開催されました。次のようなトピックスが取り上げられました:遺伝学、特徴的な発達と認知パターン、MRIによる知見、実験動物や細胞機構における様々なウィリアムズ症候群のモデルです。他のいくつかの発達障害疾患から得られた科学的新発見についても報告があり、ウィリアムズ症候群の治療方法の開発へ科学的洞察を与えます。ワークショップの最後にラップアップセッションが開催され、ウィリアムズ症候群に関する現状の知識ギャップが明らかにされ、内容がよく理解された治療(informed treatment)の実現にむけて前進するための道程が提示されました。ラップアップセッションで話し合われた重要な知見は以下の通りです。
ウィリアムズ症候群に関する知識と情報
A.病態生理学
ミーティングの参加者全員が、ウィリアムズ症候群の神経発達プロフィールの基盤をなす回路(経路、神経網、生理)はいまだに解明されていないことに同意しています。脆弱X症候群やレット症候群のような他の疾患と比較して、ウィリアムズ症候群の脳はまだ「ブラックボックス」です。回路が明らかにされないと目標とする治療法の開発ができません。
B.臨床表現型と自然史情報
発達や認知機能に関する詳細な共通情報はウィリアムズ症候群の患者全員にみられるわけではありません。個々の研究者は注意深く上手に研究を行っていますが、標準的な情報(知脳指数、適応技能など)はそれぞれの研究に固有な方法で集められる傾向があります。標準化されて均一なデータ集合を集めることは非常に有用です。これがあれば、ウィリアムズ症候群の自然史奇跡を確立し、次には、将来開発される治療介入や療法の効果を追跡監視することが可能になります。
C.遺伝学や遺伝子と環境の相互作用
ここ10年から20年の間にウィリアムズ症候群の遺伝学は大きく進歩しましたが、不明なこともたくさん残されています。ウィリアムズ症候群欠失領域にあって、単独で働くのか共同作用をもたらすのか、何から調節されているのかなどその効果が不明な遺伝子も多く残っています。最近の研究テーマは、ウィリアムズ症候群にみられる変動(心臓や血管の手術が必要な患者もいれば、そうでない人もいるなど)を説明できる遺伝子的変異を探すことです。しかし、脳内における遺伝子の効果に関する研究はまだ手付かずです。さらに、遺伝子と環境の相互作用の効果に関する知見もほとんど集まっていません。
D.表現型情報と生体材料へのアクセス
ウィリアムズ症候群患者から入手された生体試料(DNA、培養細胞株、臓器)は数に限りがあるうえ、提供者の臨床特徴はほとんど集められていません。ごく少数の例外を除いて、これらの試料は、それを収集した研究者の研究プロトコルのもとで管理されています。共同研究者の間で試料の共有が始まっていますが広まってはいません。研究資源の共有(研究を促進し、新たな研究者を支援し、試料の冗長化を避けるなど)はとても有用です。
将来性のある解決策
A.モデルシステムの研究
様々なモデルを注意深く研究することがとても有益です。この中には「WBSCRノックアウト」マウス(全ウィリアムズ症候群遺伝子が欠失したマウス)や、特定遺伝子ノックアウトマウス群(ウィリアムズ症候群遺伝子のうちの一つが欠失したマウス)、多能性幹細胞(iPS細胞:皮膚細胞を初期化することでいかなる種類の細胞にでも分化できる細胞)が含まれます。これらのモデルを注意深く研究すること、目的とする回路(前述のA項参照)の特定につながる可能性があります。
B.ウィリアムズ症候群患者の脳の研究
ウィリアムズ症候群患者の脳を直接検査することで構造の特徴や神経回路の結合を調べます。好意から数体の脳が収蔵ライブラリーに献体されていますが、すべての研究者が利用出るわけではありません。研究を前進させるために、WSAは脳を寄贈しようと考えている家族と協力して一か所の収蔵ライブラリー(あるいはライブラリーのネットワーク)に集めるよう働きかける必要があります。そうすれば利用可能性や情報が最大化されます。同時にWSAは献体と配分機構の構築を手助けします。
C.作成中のヒト脳アトラスの利用
この貴重なリソース(NIMHヒト脳発達転写アトラス:NIMH Transcriptional Atlas of Human Brain Development)は現在開発中で、アレン脳科学研究所(Allen Institute for Brain Science)からオンラインで公開されています。アレン脳アトラスデータポータルサイトからアクセスが可能で、そのアドレスは www.brain-map.org あるいは www.developinghumanbrain.org です。発達途中のウィリアムズ症候群責任遺伝子パターンを特定することができれば、回路や今後の研究の経路を特定することにつながります。
D.統一的にデータ収集できる標準の開発
神経科学者委員会はウィリアムズ症候群の被験者に適用する一連の中核的総合テストを開発しなければなりません。同様にMRI検査を行う研究者を代表する委員会は個別に収取されるビューの最小構成を特定することも必要です。この中核検査で集められた結果は(新しく設置されるはずの)情報科学ハブに集められます。ハブにある情報は資格のある全ての研究者が利用可能です。
E.リソースの共有
集められている血液や臓器試料の目録利用は制限されています。その理由は、目録の数が少ないことと、あったとしても共有が難しいためです。試料を集める際には資格がある研究者間で共有しやすい形で行うことが今回のグループで合意されました。これによって研究が効率的に加速され、さらに多くお新しい研究者をウィリアムズ症候群の分野に呼び込めます。(上記Dで紹介した)情報科学ハブは生体試料と臨床情報を結びつける必要があります。さらに、研究者が容易にモデルマウスにアクセスできるようになれば、他の分野の研究者がその専門性をウィリアムズ症候群に適用することを促すことになります。
F.新しい研究資源のサポートの特定
現時点で利用できるNIHのプログラムはすぐにリソースを提供可能であり、ウィリアムズ症候群がそれに適合するかどうかを確認します。長期的戦略を立てる、国会・国防総省・国立衛生研究所を巻き込む、私的な基金、ウィリアムズ症候群の認知度を高めるなどが必要で、これらはもっと多くの支援を必要とします。
G.非薬剤的アイデアの探索
医学的および薬学的な治療を開発することと並行して、行動面の療法のくみこみ実施と開発も必要です。医学的治療と行動的療法の組み合わせがとりわけ効果的です。
H.不安症ミーティング
多くのウィリアムズ症候群患者の人生において不安症の影響を提示したことで、他の会合で熱心に不安症やその関連症状に焦点を当ててもらうことができた。近い将来このテーマで会合が開催されることになります。
テリー・モンケイバ(Terry Monkaba)より
科学者ではない会合陪席者の一人として、いろいろな感情を感じました。今回の会合に招かれたウィリアムズ症候群の専門家ではない科学者がウィリアムズ症候群に純粋な興味を持ってくれたことにとても感動しました。ウィリアムズ症候群においては神経と発達の研究が他の症候群に比べて遅れていると知ったときは残念でしたが、WSAが援助をできるとわかり元気が出ました。あなたのお子さんに関するウィリアムズ症候群登録処理を今日のうちに完了させてください(以下のリンクにあります。www.registry.williams-syndrome.org)。それが重要な第一歩です。
(2011年4月)
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