Williams 症候群およびその他の発達障害を持つ患者の認知機能研究



中村みほ(愛知県心身障害者コロニー)
生体磁気計測装置共同利用実験報告
生理学研究所年報 第31 巻(Dec,2010)213 ページ

ウィリアムズ症候群は7 番染色体に欠失をもつ臨床遺伝子症候群であり,心血管系の異常,特徴的顔貌,精神発達遅滞の古典的症状に加えて,認知能力のばらつきが大きいことが特徴とされ,表出言語が比較的流暢であり音楽が得意である反面,視覚認知機能,中でも視空間認知の障害が強く,視覚認知の背側経路の障害が腹側経路に比してより強いことなどがさまざまに検討されている。さらに, 過度のなれなれしさとも表現される特徴(hypersociability) を持ち,対人認知面での特性にも注目が集まっている。これらの症状に関連して,その責任領域も明らかにされつつあり,ヒトの脳機能の解明という観点においても,この症候群の検討は有意義であると考えられる。我々は従来,本症候群の視覚認知機能を中心に心理学的検討,神経生理学的検討を実施してきた。本年度実施したことは以下のとおりである。

1. 今年度は,長年フォローアップしてきた本症候群患者4 名について,視空間認知障害に関する縦断的な発達を検討した。その結果,本症候群に特徴的であるとされるlocal processing bias(2 次元図形の模写において,細かい構成要素の模写は可能であるが,それらを適正に配置して大まかな形を形成することが苦手であることなど)は一過性に全例で確認できた。また,それと時期を一にして,漢字模写の躓きを認めた。しかしながら,これらの所見は多くの場合発達とともに改善がみられた。一方,一部の3 次元図形の模写に関しては,縦断的観察においても改善を認めなかった。他の知見と合わせて,本症候群においては奥行きの知覚の躓きについては発達過程における改善を認めにくいと考えられた。(Nakamura M. eta al. Development of visuospatial ability and kanji copying in Williams Syndrome. Pediatr Neurol, 41(2):95-100)

2. 上記の視空間認知の症状の一つとしてあらわれる漢字模写の躓きに対する介入法を検討した。漢字の各パーツを模写するにあたって,比較的得意な腹側経路の機能の一つである色を用い,不得意な背側経路の機能である「どこに配置するか」を,色の助けを借りてわかりやすくする方法を試みた。すなわち,下地を色分けした枠の中に書かれた漢字のモデルを同様に色分けした枠の上に模写する方法を用いたところ,有効であることが分かった。(中村ら。Williams 症候群における視空間認知障害に対応した書字介入法の検討 脳と発達in press)また,これらの視空間認知症状はウィリアムズ症候群以外の疾患(一部の学習障害など)においても時に認め,上記介入法の応用の可能性を検討中である。

3. 従来検討中の,ウィリアムズ症候群における顔倒立効果について,脳磁図,脳波を用いた神経生理学的検討の結果を再解析し,上記1 で示したものをはじめとする縦断的な臨床的知見と比較検討中である。

(2011年4月)



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