見る脳・描く脳
絵画のニューロサイエンス
岩田 誠(東京女子医科大学教授)
「見る脳・描く脳」 東京大学出版会 1997年 発行 Page 94
「第2章 描くということ」−「第1節 描くための基礎技術」−「(4)描画における作業
記憶」の中の一節として下記内容で記述されている。
−=−=− 94ページから抜粋 −=−=−
「描画の障害を示す病態のなかに、伝導失語と類似の障害を示す場合が存在するかどうか
を検討してみると、正方形のモデルをトレースはできても、モデルを見ながら模写するこ
とはできないという病態がまれに見出される。大動脈弁上部狭窄症という先天奇形を生ず
るウィリアムズ症候群という疾患では、知能低下がおこることが多いが、この疾患の患者
では、言語能力に比して図形の描写能力がきわめて低いものが多い。そのような患者のな
かには、模写はできないが目標図形をトレースすることはできる患者がいる。このような
患者では、描画動作を実現する運動系には異常がないと考えられ、視覚的認知能力にはな
んらの障害も見られない。したがって、このような患者の脳においては、視空間的記憶メ
モから中央実行システムへの情報伝達がうまく行われないのではないかと推測できる。ウ
ィリアムズ症候群では、7番染色体の一部に欠損のあることがわかっているが、脳病変の
詳細についてはまだ不明であり、どのような脳損傷によってこのような現象が生じている
のかはあきらかでない。脳のMRIを検索したウィリアムズ症候群患者でも、あきらかな異
常は見出されてはいない。
(1999年10月)
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