ウィリアムズ症候群患児(者)における心的回転と視点獲得の発達過程に関する検討



平井 真洋1)、中村 みほ1)、倉橋 直子2)、松村 友佳子1)、倉橋 宏和2)、水野 誠司2)
1) 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
2) 愛知県心身障害者コロニー中央病院
脳と発達 第44巻 総会号(2013年5月)、359ページ

ウィリアムズ症候群(WS)は、他者への選好が強いことが報告されているものの、他者の心的状態の推定に関する能力については現時点において統一的な見解がないのが現状である。近年の報告により、対象を心的に回転すること(心的回転課題、MR課題)は他者の視点を理解する(視点取得課題、VPT課題)ことよりも容易であり、VPT課題成績は心の理論課題成績を予測するとの報告がある(Hamiltonら2009)。本研究では、MRおよびVPT課題ならびにそれらを拡張した課題を用い、WS患児における他者の心的状態の推定に関する能力を明らかにすることを目的とした。WS患児・成人(26名、6-33歳)ならびに年齢統制群(CA群、26名)、言語年齢統制群(VMA群、26名)を対象に、実験1では、対象の回転により見えがどのように変わるかを調べるMR課題、他者の視点からの見えを推定するVPT課題を行った。実験2では実験1と対応し、実験参加者自身の移動による見えの違いを調べる課題(Self-Motion課題)ならびに移動を想定した課題(Self-Motion-Imagery課題)を実施した。結果、実験1においてWS群、VMA群においてはMR課題成績がVPT課題成績を上回り、WS群における両課題成績はCA,VMA群よりも低かった。実験2においてWS群のみにおいてSelf-Motion課題がSelf-Motion-Imagery課題を上回り、これらの課題成績はCA,VMA群よりも低かった。更に、WS群において、MR課題成績は言語年齢と有意な正の相関があったのに対し、VPT課題は無相関であった。これらの結果は、心的操作に遅れがある一方、他者の視点獲得に関する操作は年齢によらず困難である可能性が示唆された。

(2014年1月)



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