ウィリアムズ症候群における顔記憶に関する検討
ウィリアムズ症候群における顔記憶に関する検討
京都大学大学院人間・環境学研究科 中道和輝
東北大学大学院教育学研究科 細川徹
高次脳機能研究 第35巻 第1号 2015年3月1日 114ページ
【問題と目的】
ウィリアムズ症候群とは、7番染色体7q11.23領域の微小欠失に起因する隣接遺伝子症候群である。本症候群患者は、他者への高い関心・近づきやすさ(hypersociability)などといった性格特性を持ち、比較的良好な顔認知能力を有する一方で、視空間認知の能力が低下していることなどの視覚認知の特性が報告されている。近年、その性格特性と視覚認知特性との関連性について、いくつかの研究がおこなわれてきている。しかし、それらの研究の多くは顔認知の作業記憶(短期記憶)的側面に関するものであり、顔の長期記憶に関してはほとんど検証されていない。そこで本研究では、ウィリアムズ症候群例における顔の長期記憶の特性について検証することを目的とした。
【方法】
参加者はウィリアムズ症候群者(WS)1名(28歳男性)。WAIS-Vによる知能指数はVIQ58、PIQ47、FIQ49であった。対象群1として定型発達成人男性(TD)24名(平均年齢22.2歳、SD:0.94)と、対象群2として知的障害者(ID)4名(平均年齢24.8歳、SD:3.90)が実験に参加した。各参加者に対して、新規で無表情な顔の短期記憶(STM)課題と長期記憶(LTM)課題(平均遅延時間6.6分)を、顔の再認法を用いて行った。
【結果】
WSはSTMにおいてTD群やID群と比較して高い成績を示したが、LTMではTD群やID群と比較して低い成績を示した。その内容を見てみると、WSはLTMにおいて、既知顔に関するヒット率が高い一方で、未知顔に関するフォールスアラーム率も高いという結果を示した。
【考察】
本研究の結果から、ウィリアムズ症候群者は顔の記憶において、未知顔であっても既知顔とみなしやすく、既知・未知に関わらず顔刺激全体に対して反応バイアスを有することが示唆された。ウィリアムズ症候群者において認められた、実験場面における顔刺激への反応バイアスは、日常生活において認められる他者への高い関心を示す性格特性と関連があるのかもしれない。
(2015年9月)
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