Williams症候群に着目した精神疾患の病態解析について
木村亮
京都大学大学院医学研究科形態形成機構学
総合病院精神医学 Vol.26、No.1(2014)、75-82ページ
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9.7q11.23領域(Williams症候群責任領域)と精神疾患との関係
近年、7q11.23領域と精神疾患との関連が報告されている。自閉症ではde nove変異による7q11.23領域の増幅が発症リスクに関与するという報告(資料番号3-9-278を参照)がある。一方統合失調症では7q11.23領域の増幅を有すると発症リスクが約10倍になるという報告がある。7q11.23領域の増幅の保有頻度は低いが、疾患発症効果が大きいことから注目されている。いずれも7q11.23領域の増幅が疾患発症に関与しており、同領域の欠失によって生じるWilliams症候群とは逆であること、自閉症とWilliams症候群は社交性に関して逆であることから、大変興味深い。しかし、不安症状など自閉症とWilliams症候群に共通する症状もあることから、両者を比較する際は共通因子についても留意する必要がある。
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まとめ
本総説では、Williams症候群および精神疾患の関連についてまとめた。Williams症候群は7番染色遺体上にある、30個に満たない遺伝子の決失により多彩な症状が出現するが、その症状や重症度を規定する要因がほとんどわかっていない。自閉症や統合失調症は遺伝的異質性が高いことから、疾患への関与が大きい、特定の遺伝背景を有するサブタイプに分類したうえで病因解明を進めていくほうが現実的と思われる。そういった点から、7q11.23領域に着目した研究はWilliams症候群だけでなく、自閉症や統合失調症の病態解明に少なからず貢献できると思われる。
筆者の所属する京都大学では、基礎医学系講座(形態形成機構学)と臨床医学系講座(小児科、精神科)および人間健康科学系講座(作業療法学)と共同で、Williams症候群のトランスレーショナル・リサーチに取り組んでいる。日本ウィリアムズ症候群の会(エルフィン関西)の当事者・家族の型が積極的に研究に協力してくださり、現在までに70名以上の臨床評価検査および血液サンプルデータを取得している。これらのデータを用いて複数のプロジェクトが進行中であり、筆者は主にWilliams症候群責任領域内の遺伝子が欠失することにより、ゲノム構造が変化し、他領域の遺伝子発現が変動することによって多様な表現型・重症度が現れるのではないかという仮説の下に研究を進めている。
(2015年10月)
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