ウィリアムズ症候群におけるコミュニケーションの異質性
中村 みほ(なかむら みほ)
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所
認知神経科学 Vol.18 No.2 2016 71ページ
ウィリアムズ症候群(WS)は7番染色体に欠失を持つ隣接遺伝子症候群であり、認知機能の分野ごとのばらつきが大であること(特に、視空間認知の障害が強く、表出言語、音楽などは比較的得意なことが多い)過度の馴れ馴れしさとも表現される社会性の認知を示すなどの特徴を持つとされる。コミュニケーションに関しては、表出言語は比較的得意とされているものの、初期の言語獲得は一般に遅れる。また、社会性の認知が自閉症の対極にあるとして対比される研究も多いが、社会性の認知発達はintactというわけではなく、特に幼児期においては臨床的に定型発達からの偏移が目立つ。
一方、一般に定型発達において、言語の獲得(始語の開始)に当たっては前言語段階における社会性の認知発達、特にjoint attention(共同注意)の発達が必須であるとされている。
WSの認知機能の異質性ゆえに、定型発達と異なる言語表出メカニズムが想定されるか否かを明らかにすることは、ヒトの社会性ならびに言語獲得メカニズムを明らかにするうえで貴重な知見となりうると考えられる。
我々は言語表出前後におけるWS患児の社会性の認知発達と日本語語彙の獲得について、以下の方法で数か月ごとに縦断的な観察を続けてきた。前言語段階における社会性の認知発達の指標としては、Mundyらによるearly social communication scale(1996 ver.)に基づく報告(Mundy et al 1997)に準拠した方法を用いた。すなわち、社会性の認知をsocial interaction、joint attention(以下JA)、behavior regulationの3項目にわけ、それぞれを児からの働きかけによるinitiation、他者からの働きかけに対する反応としてのrespondの2項にさらに分けた6項目に分類し、各項目の発達レベルを3段階で評価した。語彙獲得についてはマッカーサー言語発達質問紙を用いた。(以下の1.では語と身振り版、2.では語と文法版を使用)。
今回、以下の二点について検討した結果を報告する。
検討項目:
- 定型発達における知見と同様の社会性の認知発達が言語表出に関与するか否か
- WSにおいて苦手とされる認知分野(視空間認知)に関わる日本語語彙獲得が欧米言語の報告と同様他分野に比べて違いを認めるか否か。
結果:
- WSにおいては社会性の認知発達は定型発達のレベルよりも全般におくれ、特に、JAの遅れを示すものが多かった。言語表出はJAの発達に付随して認められた。このことから、WSにおける言語表出においても定型発達と同様JAの重要性が示唆された。
- 認知領域ごとの言語発達は36か月のレベルで位置と場所、時間を示す言葉の日本語語彙獲得に定型発達に比して遅れを認め、認知特性を反映する可能性が示唆された。
(2017年3月)
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同じ内容の論文が以下に掲載されました。
社会脳の発達とその障害(発達障害)
ウィリアムズ症候群のコミュニケーションの異質性
中村 みほ(なかむら みほ)
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所
認知神経科学 Vol.18 No.3,4 2016 128-134ページ
ネット上でも確認できます。
(2019年1月)
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