ウィリアムズ症候群の視空間認知特性の研究 ―主として投影法心理検査を用いた解析―
日本女子大で下記研究が行われるようです。参加者の募集があれば、ウィリアムズノートでも案内をします。(http://mcm-www.jwu.ac.jp/~sogoken/project69-2018.html)
(2018年5月)
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研究課題69
ウィリアムズ症候群の視空間認知特性の研究
―主として投影法心理検査を用いた解析―
[研究期間]
[研究組織2018年度]
研究員(代表者) 吉澤 一弥(児童学科教授)
研究員(分担者) 根津 知佳子(児童学科教授) 和田 直人(児童学科教授)
[研究目的]
ウィリアムズ症候群は、染色体異常が原因の小児科領域の難治疾患である。支援方法の一つとして米国や日本ではミュージックキャンプが実施されている。吉澤は2001年に日本におけるミュージックキャンプの設立と開始のコーディネート役を担い、根津は音楽教育という専門性を生かして当初からキャンプを主宰して現在に至っている。16回におよぶミュージックキャンプにおいてウィリアムズ症候群の子どもたちと関わる中で、視空間認知の課題とくに言語能力と空間認知の乖離について認識でき、視覚的な課題や運動的な課題を視野に入れた研究の必要性を痛感した。ウィリアムズ症候群に関する内外の研究ではここに焦点をあてたものは見当たらない。この特性を解明するには心理学的検査法の中でもロールシャッハなどの投影法が有効と思える。ロールシャッハはさまざまな刺激を含んだ10枚の図版を順番に提示して何に見えるかを問う構造化された知覚実験である。ウィリアムズ症候群の患者がどのように図版を見るのか、どのように関わるのか、これが明らかになれば新しい支援のヒントを得ることができると考える。また、芸術療法、特別支援教育などの学界に寄与するものと考える。
今回は具体的な支援法を考案する前段階として、この特性の解析を行いたい。
[研究の特色]
ウィリアムズ症候群は小児科領域の難治疾患であり、有効な治療法が確立されているとは言い難い。本研究では視空間認知の歪みに起因すると思われる言語能力と空間認知の乖離現象の解明のために知覚実験を行う。これはウィリアムズ症候群の患者への新たな支援方法の開発に直結する。わが国でウィリアムズ症候群のミュージックキャンプを最初に導入し実践している医学の研究者、音楽療法の研究者そして美術・デザインの研究者がコラボしてこの問題に迫るユニークなものである。なお児童学科の教授だけの構成であるが、児童学科はそもそも各分野の専門家が集まる学際的な学科である。
よって、総合研究所の (4) 日本女子大学を拠点とする学際的な共同研究・調査に該当すると考える。
[研究計画]2018年度
ウィリアムズ症候群に関する専門的資料の収集、対象者10人のインフォームドコンセント、倫理審査関連の手続き、10人の心理検査実施、結果のデータの解析、解釈、中間報告的な学会発表、学内シンポジウム開催
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研究結果が以下にまとめられています。
(2022年4月)
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A Study of Visuospatial Cognition in Williams Syndrome Analysis Focused Primarily on the Result of Projective Techniques
吉澤 一弥(研究代表者、日本女子大学家政学部児童学科教授)
根津 知佳子(日本女子大学家政学部児童学科教授)
和田 直人(日本女子大学家政学部児童学科教授)
日本女子大学総合研究所紀要 第23号 抜刷(2020年11月) 143〜168ページ
1.はじめに
Williams Syndrome(以下ウィリアムズと表記する)は、1961年にニュージーランドの医師によって発見された染色体異常に起因する小児科領域の難治疾患である。具体的には、1993年にエラスチン(ELN)などの20余の遺伝子が座位する7q11.23領域の遺伝子の欠失(ヘテロ接合)により発症する隣接遺伝子症候群であることが判明し、発生頻度は1万人から2万人に一人とされている。
ウィリアムズについては、遺伝子の欠失による視空間認識の問題を指摘されているが、有効な治療法が確立されているとは言い難い。一方で、絶対音感の保有者が多いなど、音楽への親和性が高いという言説に基づき、支援方法の一つとして欧米ではミュージックキャンプが実施されている。例えば、米国マサチューセッツ州で開催された『Williams Syndrome Music & Arts Camp』は、ウィリアムズの音楽能力に着目したものであり、ミシガン州における『Music Therapy Camp for Experience』は、音楽療法を軸としたプログラムを推進している。
ウィリアムズの表現行為で特徴的なことは、国籍を問わず、交流ができることであり、歌詞の内容がわからなくても歌を覚えることができるという音楽への親和性である。
筆者らは、国内のウィリアムズの家族のニーズに応えるべく、2001年に日本における初めてのミュージックキャンプの準備を始め、米国やアイルランドのキャンプ視察を行いながらわが国の分化に即したミュージックキャンプの形態を形成してきた。
まず、立体的空間認識の課題に関しては、「人との関わりを好む」「身体接触を拒まない」という特性を最大限に生かし、家族やスタッフと共に展開できる活動を創出してきた・特に、ミュージックキャンプの期間内に参加者同士で創り上げるパフォーマンスを発表する場を最終日に設けるなど、ウィリアムズと社会や生活のつながりを重視するようにしてきた。後述するように、これらの取り組みは、ウィリアムズの家族と大学教員、学生による協同であり、省察を重ねた論文としてまとめることによって、社会的認知度の低いウィリアムズの表現の特徴を社会に発信することを心がけてきた。
2004年にあるテレビ局の特別番組として放映されたことや、インターネットの普及などにより、現在では国内外で多様な活動が展開されている。その中で、筆者らのミュージックキャンプの特徴は、家族やスタッフも表現活動に参加することである。もちろん、保護者のレスパイトサービスを視野に入れてスタートした取り組みではあったが、やがて、きょうだい(兄弟・姉妹)に焦点を当てたプログラム開発を行うようになっていった。
以上の取り組みにより、ミュージックキャンプ期間中に、就学や就労に関する情報交流や、表現活動を通じた参加者の交流などの一定の成果をあげてきたが、近年、いくつかの新たな課題に直面している。それは、学齢期を経て社会参加したウィリアムズへの支援方法の開発と、家族の高齢化に伴う活動の見直しである。
当該疾患は、加齢による精神神経面の問題、高血圧が顕著になるなどの症状の進行が認められるため、生涯を通じた医療的、社会的介入が必要と言われていることもあり、「家族と共に生活しているウィリアムズ」だけではなく、「グループホームや寮で生活しているウィリアムズ」を視野に入れる必要があることになる。
以上、本研究の問題意識は、2つある。まず、これまでのミュージックキャンプにおいて、視空間認知の課題、特に言語能力と空間認知の乖離について認識でき、視覚的な課題や運動的な課題を視野に入れた研究の必要性を痛感していることである。次に、乳幼児段階からミュージックキャンプに参加している患児・者が学齢期を経て社会参加をする年齢になり、前述の社会的介入の研究推進が喫緊の課題になったことである。
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研究結果が以下にまとめられています。なお、大学が公開しているPDF版には本論文は掲載されていません。
(2023年7月)
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ウィリアムズ症候群のための"支援プログラム"の開発 : 投影法心理検査を基盤として
雑誌記事 吉澤 一弥, 根津 知佳子, 和田 直人, 安藤 朗子
日本女子大学総合研究所紀要 / 日本女子大学総合研究所 [編] (25):2022.11 p.91-118
【編集後記より】
研究課題(76)「ウィリアムズ症候群のための“支援プログラム”の開発〜投影法心理検査を基盤として〜」は、研究課題(69)「ウィリアムズ症候群の視空間認知特性の研究」(第23号に掲載)において明らかとなった「図と地の知覚」の知見をもとに家族や関係者を含めた総合的な支援方法を探る、総合研究所の研究( 4 )日本女子大学を拠点とする学際的な共同研究・調査です。家政学部児童学科教員の専門性の幅広さを生かした本学ならではの研究成果と考えます。
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