II. ウィリアムズ症候群における超社会性
II. Hypersociability in Williams Syndrome.
Jones W, Bellugi U, Lai Z, Chiles M, Reilly J, Lincoln A, Adolphs R
The Salk Institute for Biological Studies.
J Cogn Neurosci 2000 Mar;12 Suppl 1(1):30-46
異常な人々を研究することで、認知と遺伝院因子型と神経生物学の間の関連を調べ、これ
ら異なる分析レベル間での比較が可能になる。本研究では、これらレベル間の関連リンク
を張るためにウィリアムズ症候群とよばれる稀少遺伝子疾患の患者の調査を行った。この
ようなドメイン間にまたがる調査にとって最も重要な要素は、問題となっている疾患の表
現型を正確に記述することである。本論文で最も興味ある点は、これまであまり探求され
てこなかったウィリアムズ症候群の社会性表現型であり、それには過度に社交的で情熱的
な性格が含まれる。ウィリアムズ症候群の過度に社会的な行動面を測定した4つの研究が
紹介される。それらは、ウィリアムズ症候群患者の乳児・幼児・学童・成人が持つ特定の
側面を調査している。過度に社会的な行動という異常なプロフィールは表現型の重要な要
素であり、ウィリアムズ症候群を他の発達障害疾患から際立たせている。さらに、本研究
の結果、このプロフィールは幅広い年齢層にまたがって観察されること、複数の実験方法
を使用しても一貫して現れることが示された。ウィリアムズ症候群における超社会性行動
に関するこれらの研究は、遺伝子−脳−行動の関係に関する分野横断的な分析に対する確
実な基礎を提供してくれる。
(2000年9月)
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以下は、アメリカのウィリアムズ症候群協会のニュースレター "Heart to Heart" に掲載さ
れていました。上記論文の内容をまとめたものと思われます。
(2000年10月 修正)
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Notes from the Salk Institute
Hypersociability in Williams Syndrome
Wendy Jones & Ursula Bellugi
"Heart to Heart" Volume 17 Number 3, September 2000, Page 4
これまでの研究からウィリアムズ症候群の人たちは独特の性格と社会性を持つことが
示唆されている。現在この人格プロフィールが持つさまざまな面について定義を行ってい
るところである。研究の結果、ウィリアムズ症候群の人の中には、極端な社会的不安感(非
社会的なものと同様に)を持つ人が存在することがわかってきた。一方で、ウィリアムズ症
候群の人たちの多くが社会的であり、友好的であり、豊かな感情を持つという証拠も数多
く集まりつつある。
我々はこれまでに物語つくり(story telling)における社会性と言語の絡み合いの研究
を行ったことを報告した。ウィリアムズ症候群の人たちが、韻律、抑揚の変化、脚本や次
に何が起きるかを予想させる「聞き手への手ががり」を多用することを発見した。新しい
研究では、日常生活における出来事や事実を話すようにウィリアムズ症候群の子どもに依
頼する。彼らの反応は同様の質問に対する同年齢のダウン症候群児の反応と比較された。
ウィリアムズ症候群の子どもたちは同数の質問に答えているが、それぞれの質問に対して
より長い答えを出す。さらに、ウィリアムズ症候群の子どもの多くは試験者と「立場を交
替して」積極的に情報を引き出そうとした。例えば、ウィリアムズ症候群の子どもの一人
にどんなペットを飼っているかと質問すると、「犬を飼っているよ。あなたも犬を飼ってい
る? どんな種類の犬なの?」と答える。我々はこの行動が社会的交わりを持ちつづけた
いという欲求の現れだと解釈しており、ウィリアムズ症候群がダウン症候群や正常な被験
者とは明らかに異なる特徴である。
別の研究ではウィリアムズ症候群の乳児や幼児の社会的行動を調査が行われた。自由
遊びや計画的相互作用状況下の子どもたちを観察し、彼らの行動、顔の表情、声の表現を
記録する。この研究結果によれば、低年齢のウィリアムズ症候群の子どもは、同年齢の正
常な子どもの対照群に比べて、計画的相互作用状況下において否定的な顔の表情や声の表
現を表す頻度や程度が小さいことがわかった。さらに、低年齢のウィリアムズ症候群の子
どもたちの多くが社会的目的を達するために発達的に異常な行動を見せる。例えば、小さ
な積み木をカップに入れるように指示された子ども7人の内の5人は、試験者の顔を注意
深く見すぎて課題達成がおろそかになる。ウィリアムズ症候群の子どもたちは、積み木を
カップに入れる際に自分の手元を見ないで、試験者と視線を合わせることに専念し、試験
者に笑いかける傾向がある。これらの発見は、ウィリアムズ症候群の子どもにおける社会
的興味がかなり早い段階で発現していていることを示している。
次に、初対面の人との関係構築に対する興味を調べるテストがウィリアムズ症候群の
青年や成人に対して実施された。彼らは、初対面の人の写真を見せられ、その人に近づい
て話しをしたくなる度合いを点数化するように求められた。この状況で、同年齢の正常な
対照群や学齢期の対照群に比べて、ウィリアムズ症候群の人は全ての写真に対して肯定的
な(接近したい)という点数をつける傾向がかなり多い。ウィリアムズ症候群の人たちは写
真に映ったほぼ全員に対して話しかけたいとい思っており、拒絶することはほとんど無い。
さらに、写真に映ったいくつかの表情を誤解する傾向が高い。例えば、ある被験者は「自
分に笑いかけている」と思うと言ったが、対照群の人たちは同じ写真に対して「みっとも
ないニヤニヤ笑い」だと表現した。この発見は、過度のなれなれしさがウィリアムズ症候
群の人の多くに共通する特徴であるという観察と一致する。
さらに別の研究で、正常な人及び対照的な症候群、すなわちウィリアムズ症候群・自
閉症・ダウン症候群の社会的行動に関する一連の質問に対する回答を両親から受取り、調
査が行われた。子どもが示す特定の社会的能力や傾向を両親に点数化してもらう。質問項
目は、他者に接近していく傾向・社会的状況における一般的行動・名前や顔を覚える能力・
どの程度他者を喜ばせようと思うか・他者の感情に共感したり言及したりする傾向・他者
がその子どもに接近していく傾向を査定する。調査結果からは、やはり他者に対して多大
な興味持ち、他者に接近することを我慢できない傾向を含むプロフィールが浮き彫りにな
った。両親によれば、ウィリアムズ症候群の人たちは他者に接近する傾向があり、過度に
社会的であるが、自閉症の子どもは社会性の欠如と他者に接近することに興味がない。正
常な対照群及びダウン症候群の人の両親は、子どもたちは見知らぬ人に対して最初は人見
知りをするが、知り合いになれば打ち解けると報告している。この結果は、ウィリアムズ
症候群の人の社会的領域における行動が他の症候群とは異なる特徴を持つことを示唆して
いる。
ここで報告した研究によれば、超社会性がウィリアムズ症候群の人の行動面における
突出した特徴であることを示唆している。ウィリアムズ症候群の人の社会性は、他者との
社会的交流に対する強い欲求から成り立っている。この社会的欲求は言語を含む他の認知
領域に影響を与えており、簡単な質問や物語つくり課題からその証拠が発見される。これ
は発達的に広範囲にわたっており、話し始める前の子どもからもその傾向が見つかってい
る。両親からの報告、及び他者に接近したいと言う主観的興味の計測という両手法を通じ
て、この傾向が定量化可能であると考える。最後に、ウィリアムズ症候群の人の超社会的
欲求は、正常に発達した人あるいは自閉症やダウン症候群を含む他の症候群と、ウィリア
ムズ症候群を明確に区別しているように思われる。総合すると、ここで紹介したこれらの
研究は、ウィリアムズ症候群の人の社会的行動が他者との関係においてかなり異なってい
ることを示している。このウィリアムズ症候群の発現型と、遺伝子や神経解剖学など他の
領域との関係を調べる準備が行われている。
* この抄録は、ソーク研究所の研究成果を基にして書かれ、最近発刊された"Journal
of Cognitive Neuroscience、Volume 12, Supplement Number 1"に掲載された研究をま
とめたものである。
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