ウィリアムズ症候群における統語的側面の発達の予備的検討
Preliminary study of syntactic development in children with Williams Syndrome
小泉 愛美 筑波大学大学院 人間総合科学研究科
小島 道生 筑波大学 人間系
教育相談研究 第58巻 2022 p41-51
3.まとめ
本研究は、WS児の話し言葉における統語的側面の発達の実態を明らかにすることを目的に、構文理解および構文表出課題を用いて、5名のWS児を対象に、先行研究(Koizumi et al., 2019)における定型発達児の結果と比較検討した。
その結果、WS児は、(1)より多くの文法的形態素を表出することができることから、一見、言語・コミュニケーション発達に問題がないように見受けられる。しかし、(2)同一、または低い語い年齢を持つ定型発達児に比べて、WS児は、形態的・統語的に複雑な側面における文の理解が困難で、かつ(3)態(受動態、使役態)の表出においても困難を示していた。したがって、本研究の結果より、WS児は形態的・統語的に複雑な側面における発達に困難さがあることが明らかとなった。
以上のことから、WS児の言語発達は、一見、遅れを感じさせないように見受けられるが、理解や表出、または語彙や頭語など言語領域内において発達の差があることが考えられる。
また、WS児は、認知能力に偏りがあり、これらの偏りがWS児の言語発達に何かしらの形で影響を与えている可能性が考えられる。WS児の言語発達様相を厳密に捉えていくためには、各固有の認知領域の発達様相との関係性について細かく検討していくことが、今後重要である。今後、基礎的に、または事例的研究を通じて、言語性短期記憶や他者視点の理解などといった認知的特性などとの関係性について検討を行い、新たな知見を蓄積していく必要がある。
(2023年7月)
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