子どもの神経発達遺伝子疾患ハンドブック(書評)
Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children.
(Review) / (book review)
Author/s: Elizabeth M. Tully
Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry July, 2000
Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children. Edited by Sam
Goldstein, Ph.D., and Cecil R. Reynolds, Ph.D. New York: The Guilford Press, 1999,
602 pp., $6500 (hardcover).
精神科医たちは礼儀正しくかつ頻繁に私の机に置いてあるこの本を持っていく。彼ら
は捜している遺伝に関する問題の答えをこの本に求めている。この本は行動遺伝学
(behavioral genetics)に関してとても有用である。心理学者でもある著者達は、子どもた
ちの遺伝子や神経発達の影響に関して包括的な情報を提供するという目的を十分達成して
いる。
この本は、21世紀の臨床医向けに医学や心理学分野40人の協力者を得て書かれている。
基礎原理と応用、学習や行動への疾病の影響、広範な影響を示す疾病という3部から構成
されている。遺伝子医療や統合的発達神経心理学について書かれた章から構成される第1
部が、臨床医にとっては最も関係が深く興味ある部分である。
第2部は学習障害、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、トゥレット症候群(Gilles de la
Tourette's disorder)、不安障害、自閉症やその他の広範発達障害を取り上げている。残
念ながら子どもや青年の精神分裂病には触れられていない。小児期の精神分裂病は重要な
神経発達障害だと一貫して述べられているが、この章には記述がない。精神分裂病徴候を
示す疾病につながる遺伝子の損傷があることを示唆する神経発達徴候、染色体22q11の欠
失(velocardiofacial syndrome)、初期精神分裂病用の神経心理学的検査等のトピックスに
関する記述は遺伝子に起因するおもな精神病の理解に役立つ。
子どもや青年の精神医学を学ぶ専門医学実習生や医学生にはうってつけの本である。
管理型ケアが主流の今にあって、子どもや青年の精神医学を学ぶ専門医学実習生の多くは
神経心理学評価を行う機会がほとんどない。このトピックスの章をからは、特殊化した検
査結果の評価記述をはるかに超える智恵が得られるので、彼らに読むことを薦める。自閉
症やその他の広範性発達障害を取り扱う章では、これらの障害の理解に関する過去50年間
の進展を注意深く分析し、将来の研究の方向性を強調する。第3部は14章から構成され
ており、脆弱X症候群、鎌形細胞病(sickle cell disease)、ムコ多糖症、ウィリアムズ
症候群等の複合的疾病をカバーしている。これら
の章には治療方針に加えて診断や評価に関する貴重なコメントが収録されている。
総括すると、この本は子どもや青年を対象にした精神科医向けに使いやすくよく整理
されており、我々が患者を前に直面する重大な生物心理社会(biopsychosocial)課題の
「暗い面」に光を当てる。
(2001年1月)
目次に戻る