ウィリアムズ症候群におけるブロックデザインの再分析
Re-analysing Block Design in Williams syndrome.
Emily K.Farran, Christopher Jarrold & Susan E. Gathercole
Department of Exprerimental Psycology, 8 Woodland Road, Bristol, England, BS8 1TN
"Program and Abstracts" of 8th International Professional Conference On Williams Syndrome, Page 27
緒言:
ウィリアムズ症候群の患者はブロック構成課題が苦手(Mervis, Morris, Bertrand &
Robinson, 1999等)で、模様の全体的構成を模写できないことが多い。これは部分的処
理のほうが優勢であることの影響である(Bellugi, Sabo & Vaid, 1988)。Navon課題の
成績(Rossen, Klima, Bellugi, Bihrle & Jones, 1996)やウィリアムズ症候群の作画
に関する研究(Bertrand, Mervis & Eisenberg, 1997)はこの仮説を支持している(一
方で、Mervisら、1999も参照)。我々は、ブロック構成課題において模様の心的イメー
ジを思い浮かべる能力がウィリアムズ症候群の患者の成績に影響を与えている可能性を
提示する。典型的なこの課題におけるブロックは斜線と水平垂直線の両方を含んでいる。
水平垂直線に比べて、斜線は方向の違いを識別することが難しく(Cecala & Garner, 1986)、
それが心的イメージ上へ簡単に再現できない原因となっている可能性がある。本研究は2
次元ブロックデザイン課題に関するウィリアムズ症候群患者の処理成績と心的イメージ
能力を調査する。
手法:
Raven Coloured Progressive Matrices(Raven,1993)の成績を一致された2つのグルー
プが参加した。ひとつは平均月齢239.90ヶ月(範囲:114〜461ヶ月)のウィリアムズ症
候群のグループ(WS; N=21)で、他のひとつは平均月齢79.05ヶ月(範囲:64〜86ヶ月)
の平均的に発達したグループ(TD; N=21)である。3種類の課題を用いた。子供用埋め込
み模様テスト(Children's Embedded Figures Test(CEFT:Karp & Konstadt, 1971)と心
的回転課題(mental rotation task)と正方形課題(Squares task)である。CEFTは処
理様式だけを測定できる。被験者は図形が描かれている絵の中にある三角形の位置を探
す。回転課題は心的イメージを扱う能力だけを測定する。被験者は異なった回転角度で
提示される棒状の図形を、心的にあるいは手を使って回転させることで識別する。正方
形課題は処理様式と心的イメージを扱う能力の両方を、それぞれ分割と斜線(訳者注:
図は省略)を使うことで独立して測定する。被験者は提示された正方形の模様を与えら
れた4つの正方形を組み合わせて模写することを求められる。
結果:
CEFTの成績は両グループに顕著な差は見られなかった(正答:t=-0.24, df=40, P=.81;
RT:t=-0.25, df=40, P=.80)。回転課題の正答からグループと回転方法(心的あるいは
手を使う)に顕著な相関があることがわかった(F(1,40)=13.20, P<.001)。これはWSグ
ループに比べてTD対照群が、心的な回転における正答率が顕著に高く(F(1,40)=19.46,
P<.001)手による回転における正答率には差が無かった(F(1,40)=1.59, P=.22)ことに
よる。正方形課題について、RTは分割試行において顕著な減少がみられた(F(1,40)=36.61,
P<.001)が、グループ間に違いは無かった(F(1,40)=0.02, P=.88)。交絡の主効果は非
斜線試行をすばやく行えることに起因している(F(1,40)=61.05, P<.001)。もうひとつ
のグループ間の顕著な交絡(F(1,40)=6.14, P=.02)は、TDグループ(F(1,20)=46.02,
P<.001)がWSグループ(F(1,20)=16.76, P<.001)に比べて非斜線試行を容易に行って
いることによる。
考察:
WSグループのCEFTの成績はTDグループと差が見られないことで、ウィリアムズ症候群
の患者の認知処理は正常に発達した場合と違いがないことを示唆している。ウィリアム
ズ症候群の患者は心的回転が苦手であり、この結果は彼等が心的イメージを扱うことに
問題があることを示している。正方形課題の成績は、両グループが分割課題に関しては
等しい能力を持っていることを示しており、これはCEFTで得られた結果と一致する。一
方、斜線に関しては差がある。これは正常に発達した被験者が非斜線処理試行において
も心的イメージを用いているが、ウィリアムズ症候群の被験者はそうではないことを示
している。結果として、ウィリアムズ症候群患者のブロックデザイン課題の成績が悪い
のは部分認知傾向の影響ではないことを表している。課題実行において心的イメージを
利用することに問題があることに関連がありそうである。
(2001年7月)
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