Williams症候群患児の、認知、言語、「心の理論」の発達
中村 みほ1)、原 幸一1)、熊谷 俊幸2)、松本 昭子2)、三浦 清邦2)、山中 勗2)、宮崎 修次3)
1) 愛知県身心障害者コロニー 発達障害研究所
2) 愛知県身心障害者コロニー 中央病院
3) 愛知県身心障害者コロニー こばと学園
脳と発達(日本小児神経学会機関紙) 第31巻 総会号 S264ページ、1999年
[目的]
Williams症候群については、特有の視空間認知障害に関与するとされるLIM-K1遺伝子の
欠失が報告されるなど、学際的な注目を集めている。しかしながら、本邦においてはこ
れらの患児の精神面発達についての報告は少ない。我々は、適正な療育のためにも、ま
た、今後の神経科学的検討のためにも症状の詳細な把握が必要と考え、精神面からの検
討を試みた。
[方法]
Williams症候群患児2名につき、その認知、言語能力及び「心の理論」の発達について
検討した。認知能力についてはWISC-R、K-ABC、フロスティッグ視知覚検査、図形模写を
実施した。言語能力についてはITPA、S-S法言語発達遅滞検査を行い、Tewらのクライテ
リアにより、カクテルパーティ・スピーチの有無を検討した。書字可能な1名について
は、漢字書字を確認した。「心の理論」については、自閉症児でよく実施されているSally
and Ann Taskのテストを行った。なお、健常保育園児36名(満3歳児8名、満4歳児14
名、満5歳児14名)についてSally and Ann Taskを実施し、コントロールとした。
[結果]
特有の視空間認知障害がK-ABC、フロスティッグ視知覚検査、図形の模写で確認された。
1名については、漢字の書字障害を認めた。(他の1名は漢字教育未開始。) また、2名
共に、カクテルパーティ・スピーチを認め、語用論上の問題が目立った。しかしながら、
「心の理論」の発達については発達レベルが同等の健常児との間に差異を認めなかった。
[結論]
表意文字である漢字を持つという日本語の特殊性から、患児らの視空間認知障害を漢字
の書字障害と関連して把握する必要性が示唆された。また、語用論上の問題を持ちなが
ら、「心の理論」の発達が比較的良好である患児の存在は「心の理論」の解明への手がか
りとなりうると考えられ、より多くの症例での検討が望ましいと考えられた。
(2001年8月)
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