Williams症候群の動作性知能と相貌認知能力について
砂原 真理子1), 五十嵐 一枝1), 武藤 順子1)、大澤 真木子1), 松岡 瑠美子2), 加藤 元一郎3)
東京女子医科大小児科1), 同循環器小児科2), 東京歯科大市川総合病院精神神経科3)
脳と発達(日本小児神経学会機関紙) 第31巻 総会号 S265ページ、1999年
[緒言]
Williams症候群(以下WS)は、妖精様顔貌、心血管異常、精神遅滞をもつ隣接遺伝子症
候群でありElastin隣接遺伝子の欠失が報告されている。認知能力に関しては、視空間
構成能力が特に低く、相貌認知に優れるなどの特徴がある。一方、CATCH22(以下CA)は
DiGeorge症候群、円錐動脈幹異常顔貌異常症候群などを包括した22q11.2内の隣接遺伝
子欠失を示す疾患で、その認知特性についての数少ない検討においては、精神遅滞は認
めるが、動作性IQ(PIQ)と言語性IQ(VIQ)の差および下位項目間のばらつきが少ない
と報告されている(武藤ら1996)。今回、我々は、CAを対照としWSのPIQ、相貌認知能
力を検討した。
[方法]
- PIQの検討:対象はWS1-4の4例(9,13,15,34歳)とCA1-7の7例(9,27,28歳各1
例、14,15歳各2例)。TIQの平均値(標準偏差)はWS:47.2(4.9)、CA: 46.3(3.5)であ
り差を認めない。PIQの下位項目につきt検定を用い比較検討した。
- 未知相貌認知検査:対象はWS1-3の3例と、PIQが全員WSより12以上高いCA8-10
(9,11,12歳)の3例。45枚の写真(男15人女30人、年齢19-23歳)を用いた。
15枚(男5人女10人)を刺激として、1枚ずつ3秒間提示し、残りの30枚をdistracter
として、既視か未視かの即時再認課題(yes-no判断)を行った。
[結果]
- ・ PIQの下位項目のなかで絵画配列の評価点はWSが劣る傾向を認めた。
(WS1.50(0.56)、CA3.00(1.15)、P=0.04)。
・ 空間操作能力の指標と考えられる、絵画完成、積木模様、組合せの評価点を加算
平均した得点は、WSとCAの間に有意差を認めなかった。
- 相貌認知検査の正答数 対照(男女5人、24-32歳)は表にしたとおり、WSで成績
が良好であった。
- | 対照 | WS1 | WS2 | WS3 | CA1 | CA2 | CA3 |
刺激 | 12.6±1.7 /15 | 13 | 14 | 12 | 7 | 12 | 6 |
非刺激 | 128.0±1.5 /30 | 24 | 23 | 29 | 17 | 24 | 28 |
全体 | 40.6±2.1 /45 | 37 | 37 | 41 | 24 | 36 | 34 |
[考案]
WSではPIQの下位項目の絵画配列の成績低下が顕著だった。絵画配列は視覚的な刺激を
認識し、継次的に配列する能力が要求される。WSでは、空間構成能力のうち特にその継
次的な処理に障害があると考えられた。また、WSでは、PIQがCAに比較して低いにも関
わらず、相貌認知の成績が良好であり、PIQとの間で二重解離が認められた。このことは
WSにおける相貌同定能力が特異的に保持されていることを示している。
(2001年8月)
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