Williams 症候群における視覚認知背側経路の障害の検討
中村みほ1,金桶吉起2,柿木隆介2,松本昭子3,熊谷俊幸4,宮崎修次3,渡邊一功5
1愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所, 2岡崎国立共同研究機構 生理学研究所 統合生理研究施設, 3愛知県心身障害者コロニー こばと学園, 4愛知県心身障害者コロニー 中央病院, 5名古屋大学 医学部 小児科
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第44回日本小児神経学会「子どもの脳とこころを科学する」 2002年6月27日〜29日
Williams 症候群(以下WS)はその認知能力が不均一な点が特徴とされている。今回我々は視覚認知について以下のような2段階の検討を行った。
検討1
5名のWS患児について、図形の模写、K-ABC、点間の線の模写課題を実施した。
その結果、いずれの児にも視空間認知障害があることが明らかになり、WSにおいて、視覚認知背側経路の障害が存在することを支持する知見と考えられた。また、点間の線の模写課題においては、色の認知は比較的保たれており、視空間認知障害のために達成困難な課題でも、色の情報を加えることにより達成可能となることが確認され、療育上有用な所見と考えられた。
検討2
上記患児らと同様の視空間認知障害を示す、より年長の患者(13歳男性)において、視覚系背側経路の機能について脳磁図を用い神経生理学的に検討した。
背側経路の重要な機能のひとつである運動視に着目し、その研究に有用性の確立されたランダムドットキネマトグラムによる刺激に誘発される脳磁場反応を計測した。その結果、運動視知覚の中枢とされるV5/MT野に相当すると思われる部位に反応を認め、その潜時は健常成人と有意な差を認めなかった。以上より、WSに典型的な視空間認知障害を示し背側経路の障害が疑われる本患者においても、運動視刺激に対するV5/MT野までの反応が健常者と同様に認められることが神経生理学的に明らかになった。これにより、WSにおける視空間認知障害は、視覚認知背側経路の中でも、運動視に関わるV5/MT野およびそれに至る経路以外の部位の障害によることが示唆された。
(2002年7月)
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