年長者Williams症候群患者に対する同日2回の麻酔経験



浦澤 方聡、伊藤 真騎、森 研也、鬼頭 剛
長野松代総合病院麻酔科
榊 純太郎
榊ペインクリニック
臨床麻酔 34巻2号 243-244ページ

年長者のウィリアムズ症候群(WS)患者に対する同日2回の全身麻酔を経験した。

症例

49歳の男性。身長155cm、体重42Kg。

家族歴:突起すべきことはない。

既往歴:33歳時に痔核の手術を受け(脊髄くも膜下麻酔)とくに問題なかった。

現病歴:3年前に染色体検査でWSと診断されていた。施設の階段で押されて転倒し、右上腕骨を骨折して、観血的整復術を予定した。

入院時現歴:特異的顔貌で小顎と下顎の後退(上顎より約1.0〜1.5横指)があり、開口は2横指、義歯(下顎左右第1〜2小臼歯)を使用していた。頸部はかなり細くて長い。キリン様の形状であった。中等度の精神発達遅滞(IQ 30〜50程度)を認めた。通常の日常生活は可能で運動制限はなく、内服薬はスルピリド0.1g/day、ジアゼパム19mg/day、トリヘキシフェニジル6mg/day、プロペリシアジン10mg/day(いあうれも分3)を使用していた。

術前検査:正球性貧血(RBC 314万μL、Hb9.3g/dL、Hct29.0%)があり、CRPとD-ダイマーは上昇していた。下肢超音波検査では静脈血栓は認められなかった。血清カルシウム値は正常範囲内であった。呼吸機能検査では%VC56.6%と低下していた。心電図上は洞性頻脈(112bpm)とV4-6でST低下がみられたが、心臓超音波検査では軽度の肺動脈狭窄があるのみで、EF0.68と収縮機能および壁運動は良好であった。他の検査では、とくに異常は無かった。

<麻酔経過>

手術当日朝も通常通り内服薬を使用したが、前投薬は投与しなかった。手術室入室時、血圧150/90mmHg、心拍数90bpm、SPo297%であり、患者は安静で協力的であった。プロポフォール60mg、ベクロニウム6mg、フェンタニル100μgの静注により急速導入した。マスク換気は容易で、喉頭展開時に喉頭鏡をやや浅くかけて、輪状軟骨下部を圧迫することにより、気管、声帯とも直視可能で、挿管も容易であった(Cormack Grade T)。維持は酸素−空気(FIO2 0.5)−セボフルラン1.0〜1.5%およびフェンタニル100μgの追加投与により行なった。術中血圧は100〜150/60〜90mmHg、心拍数52〜76bpm、SPO2100%、PETCO232〜38mmHgの範囲内で、とくに問題なく手術は終了した。自発呼吸の発現を待って、ネオスチグミン2mg、アトロピン1mgの静注により筋弛緩薬を拮抗し、覚醒良好を確認後、抜管して帰室した。手術時間1時間、麻酔時間1時間45分の間に総輸液量1,400mL、尿量150mL、出血量40gであった。術後の患部X線写真で、髄内釘が骨前方に逸脱していることが判明し、同日再手術となった。麻酔方法は導入、維持ともに1回目と同様に行い、気管挿管もスムーズに行われた。術中のバイタルサインも1回目とほぼ同様で、手術は無事終了して抜管後帰室した。手術時間1時間5分、麻酔時間1時間40分に、総輸液量620mL、尿量150mL、出血量110gであった。血栓対策として、周術期には下肢自動間欠的加圧装置(A-Vインパルス)を使用した。術後経過はとくに問題なく、無事退院した。

(2010年8月)



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