小児両側声帯麻痺症例の検討



横浜市立大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主任:佃守教授)
高松一郎
日本耳鼻咽喉科学会会報  Vol. 99 (1996) No. 1 91-012

はじめに

小児の声帯麻痺症例(両側および片側)は成人にみられるほど多くはないが,新生児・乳児の呼吸障害の原因としては喉頭軟化症(laryngomalacia)に次いで多いと考えられている1)2)3).今回我々は小児の両側声帯麻痺症例について,合併する疾患,臨床経過,嚥下機能,発育経過,音声,気管切開の適応を含めたその治療方針などにつき検討し若干の知見を得たので報告する.

対象

1970年から1992年まで神奈川県立こども医療センター耳鼻咽喉科を受診した声帯麻痺症例は95例になる.その内訳は両側麻痺15例,右側麻痺12例,左側麻痺68例であり左側麻痺が圧倒的に多数を占めた.今回は1993年以降に受診した両側声帯麻痺の3症例を加えた両側性の18例について検討した.

方法と結果

(略)

症例XIVは1987年12月6日38週2480gで生まれた女児,生直後より吸気性喘鳴およびチアノーゼが出現し,生後間もなく挿管された.他院へ転院し,喉頭軟化症および声門下肉芽腫の診断を受け,挿管の状態で呼吸管理されていた.また全身検索で肺動脈狭窄を認めウィリアムズ症候群と診断された.繰り返しDLSを行い喉頭軟化症および声門下肉芽腫が外科的治療を要さずに改善し,1988年8月17日抜管された.12月2日転居に伴い当科受診となった.初診時LFSで喉頭軟化症は認められず,両側声帯麻痺と診断,発症時期が不明の症例である.また吸気性喘鳴はみられるがチアノーゼはみられなかった.以降外来で経過観察し,吸気性喘鳴は1990年6月には消失した.しかし1991年7月言語発育に伴い,嗄声が目立つようになった.1993年8月には左声帯は外転および内転もほぼ完全に改善したが右声帯の麻痺が認められた.1994年8月では右声帯完全麻痺(ほぼ副正中位で固定)の状態であった.現在G(2), B(2)の嗄声を認め,2次成長後治療の予定である.

DLS:喉頭直達鏡検査(Direct laryngoscope)

LFS:喉頭ファイバースコープ(laryngeal fiberscope)

(2013年1月)



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