Williams症候群者児の麻酔経験



一瀬 景輔・中山 良輔
熊本大学医学部
臨床麻酔 Vol.21/No.9(1997-9) 1439-1340ページ


Williams症候群患者児の斜視手術に対する全身麻酔を経験した。

症例:
省略(6歳、男児。1歳頃より右内斜視を認め、3歳でWilliams症候群と診断される。 6歳で内斜視に対する前後転術を予定した)
考察:
Williams症候群は、大動脈弁上狭窄や末梢性肺動脈狭窄などの心血管系異常、妖 精様といわれる特徴的顔貌、精神発達遅延を三主徴とする稀な奇形症候群である。斜 視は35%にみられ、その他、小顎症、歯牙異常、外反母趾、嗄声、脊柱後側彎、高Ca 血症などを合併する。

麻酔管理上の問題として、心・血管病変に伴う心機能状態を術前に十分評価し、 おのおのの病態に対応することが重要である。本症例では大動脈弁上狭窄と僧帽弁閉 鎖不全を合併していたので、頻脈を避けるため眼科手術にもかかわらずアトロピンを 使用しなかった。脱水による循環血液量減少に伴う血圧低下を予防するため術前から 輸液を開始することも有用であろう。上肢で測定した血圧に左右差のみられることが あり注意が必要である。小顎症および歯牙の異常を把握しておくことは気道確保のう えで重要である。われわれは挿管困難に備えて、気管支ファイバースコープを準備し た。高Ca血症を伴う場合は、腎機能、電解質異常、不整脈、筋弛緩薬に対する反応な どに注意しなければならない。遺伝学的に悪性高熱症に関連するCACNL2A遺伝子と Williams症候群の責任遺伝子は関係していないという報告がある。しかし、脊柱側彎 や斜視の症例では、悪性高熱症の発病を念頭におく必要がある。とくに斜視症例では、 ハロタンやスキサメトニウムで咬筋強直を起こす例があるので、これらの使用は控え るべきであろう。麻酔方法の選択については、循環系抑制の少ない酸素−亜酸化窒素 −dツボクラインを用いたJackson-Rees法、NLA変法、イソフルランにフェンタニル を併用した方法などの報告がある。合併症の種類や程度に応じて選択する必要がある。

(1999年10月)

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