大動脈弁上狭窄症に関連する2種類の形態のヒト・トロポエラスチン(tropoelastin)のコアセルベーション(coacervation)不足
Deficient coacervation of two forms of human tropoelastin associated with supravalvular aortic stenosis.
Wu WJ, Weiss AS
Eur J Biochem 1999 Nov 15;266(1):308-314
ヒト・トロポエラスチンはコアセルベーションによって凝集し、エラスチンの生成に重要な役 割を担っている。ウィリアムズ症候群におけるエラスチン沈着不足は大動脈弁上狭窄症 (SVAS)におけるトロポエラスチン遺伝子の片側欠失と関連がある。注目すべき事は、SVAS の点突然変異(point-mutation forms)は、不完全な形態のトロポエラスチン生成につなが り、ナンセンス突然変異によってフレーム内に終了コドンを生成してしまう場合を含んで いる。しかし、これらの疾病に現れる表現型は、正常な対立遺伝子の場合でも異常な対立 遺伝子の場合でも症状がいろいろあることで説明されてこなかった。切断された2種類の トロポエラスチン突然変異遺伝子に対応するタンパク質を発現させ単離精製した。温度を 上げると、これらのタンパク質は予想通りコアセルベーションしたが、正常なトロポエラスチ ンの性質とは完全に異なっていた。重要なことは、切断されたSVASトロポエラスチン分子 のコアセルベーションによる凝集は37℃ではほとんど起こらない事で、正常なトロポエラス チンに見られる本質的なコアセルベーションとは異なる。さらに、コアセルベーションの中心点 (midpoints)は、欠失範囲に関連していて範囲が拡大すれば増加し、トロポエラスチンの凝 集に必要な疎水領域の喪失と一致している。両者の2次構造はCD検査で明らかなようによ く似ている。変異型トロポエラスチン分子が機能不全になり、主としてコアセルベーションに 寄与できないことでエラスチン生成から除外されてしまうという、SVASの点突然変異に関 する仮説モデルを提案する。このSVASの形態は、結果として片側欠失の場合と機能的には 同じと思われ、点突然変異SVASはコアセルベーション障害疾患と位置付けられる。
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訳者注
コアセルベーション:
逆電荷を有する2個の親水コロイドを混合する時に生ずる生成物で 分離層を形成する安定な粒子を作る。
(1999年11月)
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