様々な疾患に伴う中枢性思春期早発症の遺伝子的特徴からの考察
Insights from the genetic characterization of central precocious puberty associated with multiple anomalies.
Canton APM(1), Krepischi ACV(2), Montenegro LR(1), Costa S(2), Rosenberg C(2), Steunou V(3), Sobrier ML(3), Santana L(4), Honjo RS(5), Kim CA(5), de Zegher F(6), Idkowiak J(7)(8), Gilligan LC(7), Arlt W(7), Funari MFA(1), Jorge AAL(1)(4), Mendonca BB(1), Netchine I(3)(9), Brito VN(1), Latronico AC(1).
Author information:
(1)Developmental Endocrinology Unit, Laboratory of Hormones and Molecular Genetics, LIM42, Department of Endocrinology and Metabolism, Clinicas Hospital, Faculty of Medicine, University of S?o Paulo, S?o Paulo, Brazil.
(2)Department of Genetics and Evolutionary Biology, Institute of Biosciences, University of S?o Paulo, S?o Paulo, Brazil.
(3)University Sorbonne, INSERM, UMR_S 938, Saint-Antoine Research Center, Paris, France.
(4)Genetic Endocrinology Unit, LIM25, Department of Endocrinology and Metabolism, Clinicas Hospital, Faculty of Medicine, University of S?o Paulo, S?o Paulo, Brazil.
(5)Clinical Genetics Unit, Children's Institute, Clinicas Hospital, Faculty of Medicine, University of S?o Paulo, S?o Paulo, Brazil.
(6)Department of Development and Regeneration, University of Leuven, Leuven, Belgium.
(7)Institute of Metabolism and Systems Research (IMSR), College of Medical and Dental Sciences, University of Birmingham, Birmingham, UK.
(8)Department of Endocrinology and Diabetes, Birmingham Women's and Children's Hospital NHS Foundation Trust, Birmingham, UK.
(9)AP-HP, Armand Trousseau Hospital, Endocrine Functional Exploration Service, Paris, France.
Hum Reprod. 2020 Dec 12:deaa306. doi: 10.1093/humrep/deaa306. Online ahead of print.
研究課題:様々な疾患に伴う中枢性思春期早発症の患者には(後成的)遺伝学的根拠(epigenetic)が存在するのか? そしてそれが基底となるメカニズムを明らかにしたり、ヒトの思春期制御に関連する新たな遺伝子的発見などにつながるのか?
結果のサマリー:様々な表現型、病原、あるいは、病原的(後成的)遺伝子欠陥に伴う中枢性思春期早発症の患者36人のグループで、ヒトの思春期制御に関連する新たな遺伝子的発見が12人の患者(33%)で確認された。
既に明らかになっていること:いくつかの研究が様々な疾患に伴う中枢性思春期早発症の患者について言及しているが、中枢性思春期早発症との因果関係について推測されている研究はない。これら遺伝子が原因の疾患を有する患者について、症候群症例の遺伝分子的研究を行えば、疾患の遺伝子あるいはメカニズムを明らかにできる可能性がある。
研究の計画と大きさと期間:本探索研究は遺伝分子学的研究を基盤としており、中枢性思春期早発症と関連する構造的あるいは配列的変異を探し、候補領域のDNAメチル化分析などのゲノム全体の高速処理技術が含まれている。
被験者/材料、設定、手法:中枢性思春期早発症を呈していて脳の器質的病変がない197人の患者(女児188人)に対して詳細な臨床検査を行った結果、同じ家系に属さず、様々な疾患に伴う中枢性思春期早発症を呈する患者36人(女児32人)を抽出できた。単一遺伝子に起因する中枢性思春期早発症の原因遺伝子(KISS1R, KISS1, MKRN3, DLK1)として知られている病原性対立遺伝子変異はコホート集団全体(患者197人)から排除されている。様々な疾患に伴う中枢性思春期早発症を呈するとして選別された患者(36人)全員に対して候補領域のDNAメチル化分析と染色体マイクロアレイ分析を行った。一部の患者(9人)は、家族性中枢性思春期早発症あるいは重度の先天性の異常や神経認知異常を示していたのでエクソン全体の配列分析を行った。
主要な結果と偶然の役割:選別された36人の中枢性思春期早発症患者のうちで関連する疾患が最も多いのは、内分泌、成長、神経認知の障害であった。被験者のうちの12人(33%)から稀少な遺伝子疾患が発見された。そのうちの患者6人は中枢性思春期早発症の原因として知られている遺伝子座(14q32.2と7q11.23)に異常があり、他の6人は候補となる遺伝子領域に欠陥があった。詳しく言うと、3人の患者はDLK1/MEG3:IG-DMRの低メチル化(14q32.2破損あるいはテンプル症候群)を示し、エピ変異によるもの(1人)と14番染色体の母系片親性ダイソミーによるもの(2人)があった。患者7人は病原性のコピー数変異を示しており、3人は新規の7q11.23欠失(ウィリアムズ症候群)、3人は遺伝性Xp22.33欠失、1人は新規の1p31.3重複だった。エクソーム解析を行ったところ、患者2人から可能性がある病原性変異が見つかった。1人は女性の孤発症例でTNRC6BとAREL1にフレームシフト変異が見られ、他の1人は男性の家族性症例でUGT2B4のミスセンス置換とMKKSのフレームシフト欠失が見られた。
限界と注意喚起:患者の選択は臨床特徴から遡及的に行っており、 同じ患者を長期的に観察できていない。加えて、対象者の大部分が成人に達していないことから、これらの患者の長期的予後(特に生殖)を調べるさらなる研究が必要である。
この発見のさらなる意義:この発見は、思春期制御にかかわるメカニズムや要素を解明するための臨床‐遺伝子アプローチの関連に光をあてるものである。染色体14q32.2の破壊は中枢性思春期早発症のメカニズムとして考えられ得るDLK1のインプリンティング欠如を示唆している。他の2箇所の染色体領域(7q11.23とXp22.33)は思春期開始時期の異常を司る可能性がある遺伝子座の新たな候補である。
(2020年12月)
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