ウィリアムズ症候群の小児患者向け改定版麻酔管理の影響
Impact of Modified Anesthesia Management for Pediatric Patients With Williams Syndrome
Schmidt AR(1), Collins RT 2nd(2), Adusumelli Y(3), Ramamoorthy C(3), Weng Y(4), MacMillen KL(2), Navaratnam M(3).
Author information:
(1)Division of Pediatric Cardiac Anesthesia, Lucile Packard Children's Hospital Stanford and Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA. Electronic address: scale@stanford.edu.
(2)Divisions of Pediatric Cardiology, Lucile Packard Children's Hospital Stanford and Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA.
(3)Division of Pediatric Cardiac Anesthesia, Lucile Packard Children's Hospital Stanford and Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA.
(4)Quantitative Sciences Unit, Stanford Center for Biomedical Informatics Research, Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2021 Apr 20:S1053-0770(21)00345-1. doi:10.1053/j.jvca.2021.04.019. Online ahead of print.
目的:本研究は、周術期管理方針の導入前後における、ウィリアムズ症候群患者に対する麻酔導入間の収縮期血圧と有害心イベント(心停止、心肺蘇生術、不整脈、ST波変化)発生割合の変化を比較するものである。
研究設計:
セッティング:
参加者:著者らは、2008年11月から2019年8月の間に著者の勤務する医療機関で心カテーテル、画像診断、様々な手術のために全身麻酔を受けたウィリアムズ症候群の子ども全員のカルテ記録をレビューした。ウィリアムズ症候群患者148人、その中で118件の全身麻酔薬投与を受けた48人を確定した。背景グループを治療グループと比較した。
治療介入:周術期管理における違い(三段階リスク層別化、手術前静脈水分点滴、静脈麻酔注入、血管作動薬の早期利用)
測定と主要な結果:著者らは麻酔導入後60分以内の事象発生割合を確定した。標準化平均差を計算した(標準化平均差>0.2は臨床的に有意な差があることを示す)。背景グループ(平均年齢4.8歳、平均体重16.3kg)では67回の全身麻酔が記録され、治療グループ(平均年齢6.0歳、平均体重18.2kg)では51回だった。収縮期血圧の変化は背景グループでは-17.5% (-30.0, -5.0)であり、治療グループでは-9% (-18.0, 5.0)だった(p?=?0.015; 標準化平均差?=?0.419)。有害心イベントの発生は背景グループでは6%で、治療グループでは2%(p=0.542; 標準化平均差?=?0.207)。
結論:手術前リスク層別化、手術前静脈水分点滴、静脈麻酔注入、血管作動薬の早期利用は血行動態のより強固な安定をもたらし、有害心イベントの発生は2%になった。
(2021年6月)
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上記論文に関する指摘が「編集長への手紙」として掲載されていました。
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ウィリアムズ症候群の患者への静脈導入:すぐにやるべきこと
Intravenous Induction for Patients With Williams Syndrome: Just Do It.
Staudt GE(1), Eagle SS(2).
Author information:
(1)Division of Pediatric Cardiac Anesthesiology, Vanderbilt University Medical Center Vanderbilt University Medical Center Nashville, TN. Electronic address: genevieve.e.staudt@vumc.org.
(2)Division of Cardiothoracic Anesthesiology, Vanderbilt University Medical Center Nashville, TN.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2021 Aug 5:S1053-0770(21)00634-0. doi: 10.1053/j.jvca.2021.07.051. Online ahead of print.
編集長殿
「the Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia」の最新号でシュミット(Schmidt)らは新しい周術期管理方針とウィリアムズ症候群患者に適用した場合の比較結果を表した。
ウィリアムズ症候群は出生8000件に1件程度発生する比較的稀な疾患であり、この患者は麻酔や鎮静下で非常にリスクが高いグループである。
著者らはリスク評価システムを設計し麻酔に関連する合併症を減少させる管理方式も確立した。対応が難しいこの患者グループに対する体系的に看護方法を改善させた著者らの努力は称賛に値する。彼らは患者を、低、中、高のリスクグループに分類するための明確なリスク評価方針を提供している。しかし、統計的有意性の確認や多面的方針が欠けていることから、彼らの提示したデータをどのように解釈するかの判断が難しい。導入や手術前静脈水分点滴方針など、複数の変数が原稿に記述されている。唯一統計的に有意差が見られた収縮期血圧の差異は、隠された背景グループと静脈介入グループのコホート間であった。これは、これまでの知見、すなわち静脈導入がハイリスク患者に対するより安全な選択肢であることを支持している。安全である理由は、導入のコントロールがしやすいこと、麻酔薬と同時に血管作用薬を投与できること、呼吸器系合併症の発生率が低いことなどが挙げられる。
この論文で詳しく紹介されている管理方式の中で、高リスクグループは手術の前日の夜には入院して静脈導入の準備や水分点滴を行っている。前夜に入院して水分点滴を行うことが、手術の数時間前に水分補給を行うことより優れているかどうかは明らかではない。同じような結果が、手術前に静脈から水分点滴を行うために患者を入院させるという方法ではなく、手術実施の一時間前までに清澄液を摂取するように勧めるというヨーロッパ小児科ガイドラインに従った方法のようにより費用対効果の高い法で得られるかどうか質問をすべきである。
さらに、水分補給が有益であるとしても、静脈背景グループと静脈導入グループの間に差が見られないことから、静脈導入(吸入導入と対比して)は低血圧の低減させることに大いなる影響がある
著者らが述べていない重要な問題は、静脈導入経路を確保することが困難になる可能性である。ウィリアムズ症候群の患者は医療行為に対して強い恐怖感を持っていることがあり、その結果として静脈導入カテーテルの留置に複雑な手間がかかる。
著者らは前投薬のタイプ、投与量、経路、特に術前の前投薬のケースや一泊の入院時に行われる場合に関するガイドライン提供を検討しているのかもしれない。著者らは研究の限界に関するアセスメントに関わっている。最初に、遡及的コホート観察研究を行ったが、対照群がなかった。重要なことは、基礎となる特徴が背景グループと静脈介入グループ間で異なっていることであり、これは異なる母集団を意味している可能性がある。加えて、研究対象期間が11年に渡っていて、これによって得られた知見が、管理方法に起因するというより時間経過とともに変化したことを示している可能性がある。
この原稿で概要が示された結果によれば、小児麻酔科医はウィリアムズ症候群患者に対しては静脈導入を考慮すべきであることを我々は確信する。手段にかかわらず、麻酔医は急性心臓症状の発生に備えるべきであり、それにはウィリアムズ症候群の全患者に対する血管作動薬の緊急使用や高リスク群に属するウィリアムズ症候群の患者に対する体外式膜型人工肺(ECMO)の準備などが含まれる。
(2021年9月)
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