ウィリアムズ症候群における甲状腺機能減退及び代償型甲状腺機能減退の発生
Prevalence of Hypothyroidism and Compensated Hypothyroidism in Williams Syndrome
David Breult MD, Thomas Carpenter MD (2, Barbara Pober MD(1,2
Department of Genetics(1 and Pediatric(2, Yale University School of Medicine,
New Haven, CT. (203)737-2754 or barbara-pober@yale.edu
"Program and Abstracts" of 8th International Professional Conference On Williams Syndrome, Page 15
緒言:
ウィリアムズ症候群は染色体7q11.23領域に隣接する遺伝子の微小欠失を原因とす
る多臓器障害であり、医療面や認知面で様々な合併症がある。内分泌異常のうち特に高
カルシウム血症や思春期症発症はたくさんの報告例がある。我々の臨床例から甲状腺機
能減退の併発頻度が高いことが発見された。
手法:
1990年から2000年にかけてエール大学ニューヘブン病院(Yale-New Haven Hospital)
を受診したウィリアムズ症候群患者の臨床記録を調査した。93人の患者の臨床記録が利
用可能で、81人(87%)に甲状腺指数(thyroid indices:TFT's)の記載があり、52人(56%)
は少なくとも1種類の甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルにおいてTFTプラスであった。患
者の年齢は3ヶ月から46才(平均年齢は7.5才)であった。患者93人中78人がFISH検
査を受けており、全員にエラスチン遺伝子の欠失が認められた。甲状腺機能減退はチロ
キシンレベルの減少下でTSHが上昇した場合と定義され、代償型甲状腺機能減退はチロ
キシンレベルが正常でTSH が1種類でも上昇した場合と定義する。
結果:
52人の患者のTFTとTSHの両データを組み合わると、12人(23%)が甲状腺機能減退
か代償型甲状腺機能減退となる。6人は甲状腺機能減退と確定診断され、L-チロキシン
治療を受けた。3人の子どもは1歳になる前に甲状腺機能減退と診断され、4人目は5歳
になる前に診断された。これらの子どもの内3人は抗甲状腺抗体の上昇は認められず、1
人は検査を受けていない。残る2人の患者は成人の女性で、30代で甲状腺機能減退と診
断された。この成人の内の1人は抗甲状腺抗体の上昇が認められ、別の一人は検査を受
けていない。
代償型甲状腺機能減退は残る6人の患者で発見された。抗甲状腺抗体レベル検査は
行われていない。診断を受けた時の年齢は1才、1才、2才、4才、34才、35才であった。
最後に、ウィリアムズ症候群患者のTSH値の度数分布をエール大学で集められた対
照群サンプル(n=1504)と比較した。TSH値の中央値は、ウィリアムズ症候群で3.3mIU/ml、
対照群で1.7mIU/mlであった。この結果は、ウィリアムズ症候群患者のTSH分泌が正常
な対照群とは異なっていることを示唆する。
考察:
我々のデータによれば、ウィリアムズ症候群における甲状腺機能減退の発生頻度は
11%で、一般人における発生頻度0.1%〜0.3%の40倍程度になる。慢性自己免疫性甲状腺
炎(chronic auto-immune thyroiditis)がヨウ素を多く含む部分の甲状腺機能減退の主要
な原因と考えられる。これ以外のウィリアムズ症候群における甲状腺機能減退の原因は
次に述べる我々の発見から導き出せる。a) 検査を受けた4人の患者のうち3人は抗甲状
腺抗体の上昇が認められないこと、b) 代償型甲状腺機能減退発生頻度の上昇、c) TSH値
の度数分布基線が一般人に比べて右側に移動していること、d) 今回の症例における甲状
腺機能減退の早期発症が典型的な自己免疫性甲状腺炎であること。
結論:
本研究の結果から、ウィリアムズ症候群患者は甲状腺機能減退あるいは代償型甲状
腺機能減退になる可能性は25%である。何人かは自己免疫性甲状腺炎を原因とするが、ウ
ィリアムズ症候群独特の機構が存在する可能性がある。この機構には、a) TSH分泌調節
機構の変化、b) 甲状腺のTSH耐性、が関連している可能性がある。ウィリアムズ症候群
における代償型甲状腺機能減退における自然歴は不明である。これが過渡的な状態であ
るのか、最終的にホルモン補充を必要とする甲状腺機能減退の前触れであるのかは明ら
かではない。甲状腺機能減退の治療を行わない場合、認知能力や循環器系に障害を持つ
ウィリアムズ症候群患者に重篤な影響を与えることを考えると、甲状腺機能を頻繁に検
査することが必要である。
(2001年4月)
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