二回の全身麻酔を行ったWilliams症候群の一症例
佐藤 宏明 1、大川 岩夫 1、松川 隆 2、貴家 基 1、玉木 章雅 1、熊澤 光生 2
1青梅市立総合病院 麻酔科、 2山梨医科大学 麻酔科学教室
日本臨床麻酔学会第22回大会 (2002年10月31日 〜 11月2日)
オリジナル
Williams症候群は、小妖精様顔貌、精神発達と身体発育の遅延、心臓血管異常、高カルシウム血症の4徴候を合併する稀な疾患である。今回、本症候群患児に対して二回の全身麻酔を経験したので報告する。
【症例】 8歳、男性。身長130cm、体重29kg。Williams症候群、原発性肺高血圧の診断で近医に通院していた。
【現病歴】
【術前検査】 小妖精様顔貌がみられ、胸部X線、心電図で、右室への負荷所見が認められ、以前に施行された心臓カテーテル検査で肺高血圧の存在が指摘されていた。また血液生化学検査では、血清カルシウム値は正常であった。
【麻酔経過】 手術は左上腕骨骨折に対し観血的整復固定術が施行された。前投薬はatropineとhydroxyzineを筋注し、propofol、vecuronium、fentanylにて急速導入し、気管内挿管を行った。N 2O、propofolにて維持し、適宜fentanylを追加した。術中はPGE 1を持続静注し、TEEを使用し心機能を評価した。筋弛緩剤は導入時のみ使用し、手術終了後に抜管して病棟に帰室した。手術時間3時間、麻酔時間4時間10分であった。そして約3ヶ月後に偽関節を形成してしまったために腸骨移植術が行われた。麻酔法などはほぼ前回と同様に行い、手術時間2時間30分、麻酔時間3時間50分であり今回もとくに問題なく終了し抜管の後帰室した。
【考察】Williams症候群の麻酔管理上の問題点は、(1)挿管困難(2)精神発達遅延(3)心血管異常(4)悪性高熱症(5)高カルシウム血症などである。(1)にはpropofolを静注後、筋弛緩剤を静注する前に喉頭展開し挿管の難易度を把握した。また気管支ファイバースコープの準備もしておいた。(2)では、この患児は医療行為に対し協力的であったため問題とならなかった。(3)はTEEを使用し、循環管理の手助けとした。また肺高血圧に対してPGE 1を持続静注した。(4)には、誘因となり得る薬物を避け、(5)には、適宜血液ガス分析を行った。Williams症候群の麻酔管理には複数の注意点があり、充分な計画と準備が必要である。
(2002年11月)
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麻酔 第52巻 第8号(2003年8月)の876ページにも同様の内容と思われる「短報」が掲載されている。
(2003年9月)
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