ウィリアムズ症候群成人の糖耐性異常と感音性聴覚損失
Abnormal Glucose Tolerance & Sensorineural Hearing Loss In Adult With WS
B.Pober, E.Wang, T.Morgan, E.Cherniske, E.Young, K.Petersen, L.Osborne, S.Caprio
"Heart to Heart" Volume 19 Number 3 September 2002, Page 5
ウィリアムズ症候群の成人の長期自然歴については限られた情報しか公開されていない。我々の研究センターを訪れたり臨床検査を受けているウィリアムズ症候群の成人には、糖耐性異常や高い頻度で感音性聴覚損失が見られる。
下記のどちらかの方法で募集した無症候性のウィリアムズ症候群患者に対して糖耐性検査と聴覚能力検査を行った。1)30歳以上の成人に対して、認知・医療・感情状態に関するデータを集める我々の多面的研究の参加者、2)日常の遺伝子診療を受けに来院した25歳以上の患者。患者の分布は次の通りである。
研究:経口糖耐性検査
サンプル数 | 男/女 | 平均年齢 |
22 | 8/14 | 36歳 |
研究:聴覚能力検査
サンプル数 | 男/女 | 平均年齢 |
19 | 9/10 | 42歳 |
通常と同じ2時間経口糖耐性検査を実施した。各患者の検査結果は規定された方法に従って分類され、年齢・性別・肥満度指数(BMI : body mass index)を一致させた対照群と比較した。聴覚損失のスクリーニングには標準的聴覚能力検査を用いた。標準周波数範囲(500-8000 Hz)で聴覚レベルを評価した。通常なら加齢と供に低下する聴覚能力を考慮に入れるために、1000-6000 Hzの周波数範囲で得られている年齢及び性別の修正係数を用いて測定結果を調整した。
ウィリアムズ症候群被験者の大多数に糖耐性異常が見られた。8人(8/22=36%)は無症状性糖尿病であり、9人(9/22=41%)は糖耐性異常の範疇に入る。残る5人(5/22=23%)の糖耐性は正常であった。BMIで過体重あるいは肥満の範囲に入っているいる被験者に特に糖耐性異常の傾向が強い。対照群と比較した場合、ウィリアムズ症候群の被験者は高糖度に対するインシュリンレベルが低い。
14人(14/19=74%)のウィリアムズ症候群被験者は少なくとも高周波数域における軽度の感音性聴覚損失を呈し、ほとんどのケースで両耳に見られた。これらの被験者の4分の1は中程度の聴覚損失であった。3000Hzから始る年齢別及び性別の修正係数を用いて調整した軽度聴覚損失を意味する期待レベルより、患者の聴覚レベルは平均で20dB以上高く、6000Hzまで周波数が高くなるに連れて聴覚レベルは悪化していく。
この調査結果はウィリアムズ症候群の成人に対して糖尿病と聴覚損失に関する臨床検査を行う必要性を示唆している。ウィリアムズ症候群は過体重が糖耐性異常を悪化させる重要なリスク要素になることを示している。ウィリアムズ症候群の責任遺伝子領域に存在し欠失している遺伝子のひとつであるsyntaxin1Aは通常インシュリン放出に関係しているので、 片方の遺伝子コピーが欠失していることで糖耐性異常になりやすい可能性がある。聴覚損失に関して言えば、早期老人性難聴(高音の難聴)の傾向が見られる。聴覚損失の原因となる機構は知られていないが、ウィリアムズ症候群の責任遺伝子領域にある1つの遺伝子の欠失による影響であると予想される。
(2003年1月)
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