小児左主気管支狭窄に伴う換気不全に対し経鼻マスクCPAPが有用であった2症例
阪口 雅洋、志馬 伸朗、加藤 祐子、井上 静香、橋本 悟、田中 義文
京都府立医科大学附属病院集中治療部
ICUとCCU 第28巻 第4号 271-277ページ(2004年4月)
資料番号3-3-45や3-3-76と同じ症例と思われます。
(2006年8月)
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要約:
先天性心疾患の根治手術後に大血管の圧迫から左主気管支閉塞による換気不全を呈した男児2症例に対し経鼻マスクCPAPによる呼吸管理を行った。症例1は10ヵ月男児。Williams症候群に伴う大動脈狭窄、肺動脈狭窄に対し根治術が行われた。人工呼吸離脱7日後に左全無気肺を呈し再挿管となった。胸部CTにて大動脈グラフトによる左主気管支の圧迫が確認できた。症例2は9ヵ月男児。ファロー四徴症に対する根治術後4日目に抜管したが呼吸状態悪化しすぐに再挿管となった。拡張した肺動脈による左主気管支の圧迫所見を認めた。両症例ともに2回目の抜管時に予防的に経鼻マスクCPAPによる呼吸補助をそれぞれ9日間および8日間行うことで無気肺を防止し、再挿管を回避できた。気管支狭窄から換気障害を起こした乳児の人工呼吸器からの離脱時において経鼻マスクCPAPは有用な“つなぎ”治療である。
中略
症例1:10ヵ月、男児
出生時より心雑音を指摘され、心臓超音波検査(UCG)によって肺動脈狭窄、心室中隔欠損症と診断された。生後8ヵ月時のUCGにて弁上性の大動脈狭窄を認め、さらに発達の遅れ、妖精様顔貌、第7染色体の一部欠損を認めたことよりWilliams症候群と診断された。
10ヵ月時に当院にて人工血管グラフトによる大動脈拡大再建術、肺動脈拡大術を施行した。手術時間616分、対外循環時間302分、大動脈遮断時間102分であった。
術後小児ICUに入室。手術操作が左主気管支付近に及んだため術後1日目に気管支ファイバースコピー施行したが気管の浮腫、狭窄等の異常所見を認めなかった。除水とともに人工呼吸器からの離脱がすすみ術後4日目に抜管した。その後呼吸機能悪化することもなく術後9日目に一般小児病棟に移った。
術後11日目胸部XPにて左全無気肺を呈したため胸部CT施行したところ、左主気管支が大動脈グラフトにより圧迫され著名に狭窄しており、これによって閉塞性無気肺を生じていると診断された。3次元CTにて気管支の圧迫状態をより視覚的に捉えることができた。小児ICUに再入室し気管挿管下に陽圧式人工換気を開始した。気管支ファイバースコピー施行したところ左主気管支に拍動を伴う壁外性の圧迫狭窄所見を認めた。挿管・陽圧換気にて左無気肺の改善を認めたため、翌日抜管し、ViPAP Visonを用いた経鼻マスクCPAP(4〜5cmH2O)による呼吸管理を開始した。なお、口呼吸に伴うエアリークに対してはニップルをくわえさせて口を密閉する工夫を行い改善した。経鼻マスクCPAP開始後左無気肺は少しずつ改善し、開始3日目からは夜間のみ間歇的に使用した。9日間の経鼻マスクCPAP管理の末に呼吸補助より離脱することができ小児ICUを退室した。経過中SpO2が95%程度まで低下することもあったが再挿管には至らなかった。その後再び無気肺を呈することはなく術後35日目に退院した。
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