Williams症候群を背景に持ち、小腸内視鏡が診断に有用であったMeckel憩室の1例



在原 文教、河合 博志、卜部 健
公立松任石川中央病院 消化器内科
Gastroenterological Endoscopy Vol.50, Suppl.1 2008年 912ページ
(第75回 日本消化器内視鏡学会総会)

症例は28歳男性。幼少時より精神遅滞を有する。2005年6月に大量下血にて入院精査が行われたが、原因不明であり自然軽快した。2007年10月、暗赤色下血、全身倦怠感を主訴に当科受診した。腹部所見に異常なく、Hb 6.1g/dLと著名な貧血を認めた。上部消化管内視鏡検査では出血源となりうる病変なく、腹部CTおよびPET-CTにても明らかな異常は指摘できなかった。大腸内視鏡検査では盲腸に血性内容が少量貯留し、Bauhin弁上に小さなvascular ectasiaを認めたが出血源とは考えにくいと思われた。本例は精神遅滞に加え低身長、眼間狭小、厚い口唇など特異な顔貌、大動脈弁上部狭窄(圧較差50mmHg)、歯牙形成異常などの複数の身体的特徴を有し、後日、遺伝子検査にてWilliams症候群と診断された。大動脈弁上狭窄症患者において腸管vascular ectasiaからの出血を有意に来しやすいとされ、同群をHeyde syndromeとして海外を中心に報告されている。本例でもBauhin弁上に小さなvascular ectasiaを認めたこともあり、小腸病変からの出血を疑い小腸内視鏡を施行した。十二指腸および空腸には小vascular ectasiaを1個確認し、また回腸末端部より約70cm口側に小憩室を認めた。憩室内粘膜には再生上皮様の発赤した粘膜がみられたが、潰瘍や出血所見は認めなかった。異所性胃粘膜シンチにて同部に集積を認め、Meckel憩室と診断した。同部が出血源であった可能性が高いと考え、腹腔鏡下回腸部分切除を施行した。病理所見上は胃粘膜に富む真性憩室でありMeckel憩室として矛盾しなかった。術後経過は良好であり、現在のところ再下血は認めていない。Williams症候群は多彩な症候を呈し、消化器系ではエラスチン遺伝子異常により大腸憩室の発生や胃食道逆流、直腸脱の報告がみられる。消化管出血としては憩室からの出血の報告があるが、Meckel憩室に関連した報告は認められなかった。またvascular ectasiaからの出血も否定はできず、今後も定期的なfollow upが必要である。Williams症候群という特殊な背景を持ち、Heyde syndromeが疑われるも小腸内視鏡にてMeckel憩室を診断し得た興味深い1例として、文献的考察を交え報告する。

注:
【Bauhin弁】:小腸と大腸との間の境目の壁が弁のように内側に飛び出した構造
【vascular ectasia】:血管拡張
【Meckel憩室】:内部に胃粘膜組織をもつ憩室

(2009年2月)



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