ウィリアムス症候群の意識下気管支鏡下挿管
加藤 真也、水野 樹、井野 研太郎、黒木 佳奈子、森田 茂穂
帝京大学医学部 麻酔科学講座
蘇生, 27(3) : 221ページ, 2008年9月
【緒言】
ウィリアムズ症候群(Williams症候群)は、小妖精様顔貌、精神発達遅滞、心臓血管異常、高カルシウム血症の4徴候を合併する症候群である。今回、異なる気管挿管法を用いたWilliams症候群の二症例を経験したので報告する。
【症例1】
35歳、女性、153cm、59kg。心房細動、僧帽弁閉鎖不全症に対して、僧帽弁置換術を予定した。小顎、下顎後退を認めた。開口時の上下門歯間距離4.0cm、下顎舌骨間距離3.0cm、下顎甲状軟骨骨間距離5.0cm、頭部後屈30度、マランパチ(Mallampati)分類V度であった。全身麻酔薬投与後、喉頭展開をしたところコルマック(Cormack)分類W度で、盲目的に気管挿管した。
【症例2】
71歳、女性、136cm、30.9kg。S状結腸憩室炎に対して、S状結腸切除術、左尿管ステント挿入術を予定した。厚く突出した口唇、小顎、後退した下顎、巨舌を認めた。開口時の上下門歯間距離3.0cm、下顎舌骨間距離4.0cm、下顎甲状軟骨骨間距離2.5cm、頭部後屈20度、Mallampati分類W度であった。気管挿管困難を予測し、意識下に8%リドカインスプレーを喉頭に、気管支鏡を用いて4%リドカインを声帯、喉頭、気管内に散布し、吸気にあわせて経気管支鏡ガイド下に内径7.0mmのパーカー気管チューブ(R)(Unomedical社製、Kedah Darui Aman, Malaysia、現Well Lead Medical社製、Panyu District, Guanzhou, China)を用いて気管挿管した。声門通過時に抵抗はなく容易に挿管しえた。
【考察】
咽頭気道開通性は、咽頭喉頭周囲の軟部組織量と軟部組織を取り囲む上顎、下顎、頸椎で形成される骨構造のバランスが重要である。本症候群はエラスチン遺伝子の欠失により小顎症を合併するため、挿管困難となりやすい。米国麻酔科学(American Society of Anesthesiologist:ASA)ガイドラインでの気道評価項目には、開口時の上下門歯間距離、開口時の咽頭の見え方、下顎甲状軟骨間距離、頭頚部の可動範囲などが挙げられている。ASAの気道確保困難のアルゴリズムでは、気管挿管困難が予想される患者に対しては意識下の挿管を行う。頭頚部腫瘍や、頸部後屈不能な関節リウマチ合併症に対して、意識下の挿管を行うことがある。非侵襲的な意識下挿管の方法の中で、気管支鏡を用いた挿管は合併症が少なく成功率の高い方法である。本症候群においても、パーカー気管チューブ(R)を用いた意識下の気管支鏡下挿管は安全な気道確保の方法である。
【結語】
Williams症候群の全身麻酔導入では、気管挿管困難が予想され、気管支鏡を用いた挿管を考慮する必要がある。
(2009年4月)
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同じ内容の論文が下記にも掲載されていました。
麻酔 2010 May;59(5):632-4
(2010年5月)
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