（２０００年１月）

ジャックはウィリアムズ症候群特有の腹痛（生後８ヶ月になるまで一日２０時間は金 切り声を挙げて泣き続けました。Ross Lab.社が製造した低カルシウムミルクのCALCILO XD を見つけてようやく収まりました)がありました。ジャックは身体的特徴と心臓疾患 （SVAS：症状は軽度でしたが、特発性高血圧を併発していました）がありました。最終的 にFISHテストの結果でジャックは確かにウィリアムズ症候群を持っていると診断されまし た。しかし、何か別の事が起こっていました。ジャックは私たちを見つめ ませんでした。 彼が私たちを見るときは、まるで私たちがガラスの窓になったように私たちを素通しして 遠くを見ているようでした。それは氷のように空虚な視線でした。私はそのことについて まだ軽く考えていました。彼は(ウィリアムズの子どもの多くがそうであるように)回転す る物体が好きでしたが、社交性はありませんでした。彼は人々との交わりを求めませんで した。彼は人より物のほうが好きでした。彼の発達は(粗大運動能力に関して)普通のウィ リアムズ症候群の子どもたちとよく似ていましたが、微細運動能力は予想されたようには 発達しませんでした。そして、とうとう彼は言葉が出ませんでした。３才までに単語ひと つ覚えず、人の話を注意深く聞く事も、言葉を理解する事も、何一つできませんでした。 彼は水に執着があり(今でもあります）、紙をしわくちゃにしたり噛んだりするのが好きで した(今はだいぶ少なくなっています。皮肉にも、彼の一番のお気に入りは親向けの雑誌 (Parents Magazine)です。）私たちは専門家を探しました。マーフィーの法則通り、あまり 例の無い症状のわりにジャックは良くやっていたので、専門家たちは彼を単なるウィリア ムズ症候群であり、それ以外に問題は無いと言う傾向がありました。辛抱強く待っていな さい、あまりあせらずに、と彼らは言いました。しかし彼らは間違っていました。彼らの 想像よりジャックが良いことは知っていましたが、どこかが違っていました。ウィリアム ズ症候群としての標準的な発達状態ではないので、バーブと私はあせりました。

ウィリアムズ症候群で共通的に話題になるのは、外見や行動が似通っていることです。 私たちの子どもはよく似ていて同じような行動をします。ジャックはウィリアムズ症候群 の外見的特徴の一部を持っていますが、行動はまったく似ていません。できないのです。 かれは自閉症です。どうやってそれを知ったかお話します。それは皮肉にもこのニュース レターからでした。実際、少ない情報を探す過程で、残念ながらバーブはジャックが普通 ではないことを信じられる様になりました。私たちが何かがおかしいと心底思い始めた頃 （ジャックは１才になったばかりでした）、バーブはもう一度ニュースレーターを読み返し ました。ジャックが産まれる前の分も見ることができました。１９９４年春のWSAのニュ ースレター（ジャックが産まれる２、３ヶ月前）には、ダニー(Danny)少年の記事が掲載さ れていました。その記事にはダニーの母親のエイミー(Aimee)が幼い息子のことを書いてい ましたが、ひとつひとつの事柄がジャックとまったく同じでした。書かれていた１０個か ら１２個の特徴のすべてにジャックはあてはまりました。これだ！ バーブはエイミーに電 話をかけた結果、ダニーの家族はとてもたいへんな療法を彼に適用していました。あまり に集中的で、私たちにはできると思えなかったので、実際にはやりませんでした。しかし、 ジャックはすぐに３才になり、私たちは崖っぷちに追い詰められました。私たちはジャッ クに言語・作業・理学・抱きしめ(Holding)療法など、思いつく限りの療法を受けさせまし た。やってみましたが、どれも効果はありませんでした。２才から３才にかけてジャック にはまったく進歩がありませんでした。私たちは絶望的になっていました。それで、「ダニ ーにしてあげてことは何だったか正確に教えて？」、ともう一度エイミーに電話をかけまし た、バーブは彼女と一時間も電話で話し込みました。応用行動分析（ABA : Applied Behavior Analysis）と呼ばれる自閉症児向けの教育プログラムのことを知りました。応用行動分析 は集中的な時間(一対一で週４０時間)と費用を必要とします。彼女は２冊の本を読むよう に勧めてくれました。Let Me Hear Your Voice(あなたの声を聞かせて)とBehavioral Intervention For Your Children With Autism(自閉症児のための行動療法)で、どちらも キャサリン・モーリス(Catherin Maurice) という女性が書いています。バーブは少し前に 前者の本を読んでいましたが、私たちはもう一度両方を読み返して、まず最初に私たちが すべき事を探しました。応用行動分析(行動心理学に基づく学術的訓練方法)は、３０年以 上にわたって実施されており、報償によって行動を変えていくことに主眼をおいています。 現在の応用行動分析プログラムでは、期待される行動には報償が与えられ、期待されない 行動は無視されます。ジャックは応用行動分析プログラムを２年間受けてきました。１９ ９７年７月から取り組みを開始し、最初の３ヶ月間は週１０時間から始めました。いろい ろな人が勧めてくれた、いわゆる「奇跡の療法」のひとつではない事を祈っていました。 でも、この方法は明らかに違っていました。劇的な変化が見られました。アイ・コンタク トが増え、何かを交代で行うことを覚え、集中力がつきました。まだ言葉が出ず、人より 物のほうが好きでしたが、とにかく進歩が見られました。そこで、さらに２人の訓練士と 応用行動分析プログラムのコンサルタント(応用行動分析プログラムの計画を作成します) を雇い、プログラムを週３０時間に増やしました。真似をすることを覚え、声を出し始め、 似た物同士を合わせることを覚え、ものを特定することや分類することを覚え、物体を取 り扱うことを覚えました。続く半年間にもっと驚くべき進歩が見られました。次の春から 週４０時間に時間を増やし、さらに２人の訓練士を雇いました。これまでに、発音はへた ですが「Daddy」や「Elmo」と言えるようになりました。時間を増やせば増やすほど進歩し ました。表面的には、プログラムの集中度を上げれば上げるほど、ジャックは交わりを求 めるようになりました。まるで彼は解き放たれたようでした。勉強することがとても楽し そうでした。彼ができることをする時は、訓練士(や両親)と一緒にいて一番楽しそうでし た。まだまだ従順ではないという問題が残っていて、時々表面化します。しかし、指示に 従わないという限界を調査しているわけではありません。どの子にも「調子のいい」日と 「調子の悪い」日はあるものです。ジャックも例外ではありません。

私たちの子どもは最初は完全に非社会的な、つまり言葉の理解も発語もなく集中力も できない子どもでした。私たちはその頃のことをジャックが「まだ箱の中にいた」時期と 読んでいます。２年たった今では、ジャックは３００以上の名詞と３ダースの動詞を聞い て理解し、独自の前置詞を(表現的にも概念的にも)理解し、３語から５語で文章を組み立 てます。ほんの２週間ほど前ですが、ジャックは身の回りのことについてコメント(「雨が 降っている」とか「それは緑色のバスだよ」)できるようになりました。人形や物を使った ごっこ遊びが見られるようになり、それらを他の子どもたちに見たてて遊ぶようになりま した。ジャックには今５人の訓練士と１人のコンサルタントがついて、それぞれプログラ ムの訓練と管理を担当しています。私はジャック株式会社を運営する執行 重役であり、バ ーブは医療と保険を担当しながら、世界で最も偉大な母親であり研究者だと冗談で話して います。給与の支払い、方針(プログラム)、マーケティング戦略(対ジャック)、設備管理 責任など小さな会社を経営しているようなものです。たいへんですが、やる価値がありま す。見返りはジャックの生活の質が向上することと私たちの幸福です。このプログラムの 費用の捻出は難しいことです。自閉症の子どもにだけ応用行動分析プログラムを提供して いる学校区もあります。私たちは、適切な教育を提供しなかったことで私たちの属する学 校区を訴える必要がありました。この裁判はこの夏に終わったところです。私たちはジャ ックを通常学級に通わせたいと思っていますが、ジャックはこの統合教育(Inclusion)を成 功させるだけの技能がまだ備わっていません。私たちはけして何もしなかったわけではあ りません。過去６ヶ月間、ジャックは平均週４５時間応用行動分析プログラムを受け、こ れから数年間はこの状態を維持しようと考えています。ジャックがしなければいけない事 はすべて外部から教えこむ必要がありました。それはまるで、彼が外界と接触するために 必要な一般道と高速道路網を彼の心の中に作り上げるようなものです。彼は自分自身では (例えば付随的に)学び取る事ができないので、私たちが教えてあげるのです。そしてジャ ックの生活が変わるにつれて、私たち自身の生活も変わります。彼は管理しやすく、コミ ュニケーションがとれ、回りとの接触を楽しめるようになります。彼は妹や他の子どもと 遊びます。彼は昔より幸せになりました。ジャックがついに「箱からでてきた」ように見 えます。

ジャック自身は奇跡的な存在かもしれませんが、これは奇跡を起こした話ではありま せん。これは努力と集中的計画と何事も当然だとは思わないことの結果です。応用行動分 析は毎日あらゆる所でで何万人もの子どもに適用されています。応用行動分析には年齢や 国籍や人種の壁はありません。世界中の自閉症の子どもたちが応用行動分析の恩恵に浴し ています。もちろん恩恵を受けているのは自閉症の子どもたちだけではありません。他の 行動的問題を抱えている子どもたちにも有効です。３０年におよぶ学問的研究成果が有効 性を示しています。たった一つ後悔していることがあるとすいれば、 最初におかしいと感 じたジャックが１才の時に応用行動分析を開始してさえいたらということです。あらゆる 徴候が見えていたのですが、私たちはそれがサインだとはわかりませんでした。私たちは 彼が自閉症だとは知りませんでした。しかし、何か別のことが起こっていることだけはわ かっていました。現在では、CHAT（Checklist for Autism in Toddlers：幼児の自閉症チ ェックリスト）と呼ばれるかなり信頼性のあるテストがあり、実施するのに必要な時間は ほんの５分から１０分です。１才の時点でジャックはすべての項目に当てはまったでしょ う。奇跡がおこったとすれば、私たちが応用行動分析を見つけたことでしょう。あるいは、 「箱」のふたを開ける鍵を見つけたことかもしれません。ウィリアムズ症候群のお子さん の中で、ジャックの様に典型的なウィリアムズ症候群の型に当てはまらない場合、あるい は能力がかなり低いと思われる場合、また、両親が管理できないような行動的問題を抱え ている場合、応用行動分析に挑戦してみることを強く勧めます。少なくとも応用行動分析 を勉強してみて下さい。有益な情報がたくさんあります。もっと応用行動分析について知 りたい、あるいは私たちのことについて詳しく知りたい方は、気軽にfamvacek@aol.comま で電子メールを送ってください。