乳児期から学齢期までの一貫した地域発達支援 − 発達相談員の立場から −



小特集・親子を支える地域療育の架け橋
久保 由美子(愛媛大学教育学部障害児教育講座)
発達障害研究 第26巻 第4号(2005年2月) 221-229ページ

要旨:
中略

  1. 事例の概要
      H児:女子、7歳(小学校2年、特殊学級在籍)、Williams症候群。

      H児は母親と2人家族である。乳児期に発達的リスク児として把握され、保健センター、保育園、子育て支援センター、小学校、学童保育と発達支援を継続してきている。


  2. 発達支援の経過
      発達支援の経過と関係機関の連携を図1(略)に示した。

      (1) 保健センターでの発達相談と親子教室(集団指導・個別指導)
         K町では乳児期(生後3,4ヵ月)から定期健診を実施し、ハイリスク児を早期に把握し、フォローアップしていきている。フォローアップされたハイリスク児に対しては、保健センター主催の親子教室と子育て支援センター主催の教室において経過観察しながら、親子関係と親の友達関係づくりを支援している。

         H児は、生後3,4ヵ月児健診時に実施した発達相談から、全体的な発達の遅れがみられハイリスク児として把握された。そして、親子教室において経過観察を行いながら、発達相談を継続し、1歳6ヵ月時には特別児童扶養手当の申請とあゆみ学園(知的障害児通園施設)の母子通園につなげた。さらに、5歳時には保健センターにおいて専門員による個別指導を受けることが可能になり、就学後も学校において継続した。5歳9ヵ月の発達相談では、感覚運動発達を促すために整肢療護園における感覚統合療法による指導を勧めた。

      (2) 保育園での集団保育と訪問による発達相談
         2歳5ヵ月から保育園に通学し、入園時には、H児の発達支援のために加配保育士の設置を依頼し、集団保育においての個別的な支援が可能になった。また、発達相談員が保育園を訪問し担当保育士との相談を行った。

      (3) ひまわりグループ(母子通園事業)での療育
         保育園に在籍している発達的問題のある子どもを対象に、保育士(K保育園の保育士と施設支援として参加している通園施設の保育士)が中心に療育を行い、保健師、小児科医、作業療法士、発達相談員らもスタッフとして加わり実施している母子通園事業のひまわりグループがあり、H児も保育園入園児からひまわりグループに参加した。

      (4) 小学校(特殊学級)での発達相談・巡回療育相談
         乳児期からの一貫した発達支援のために、就学後は学校訪問による発達相談と療育相談を実施し、保健機関と教育機関との連携を図っているが、H児も巡回発達相談と巡回療育相談を継続している。

      (5) 放課後・長期休暇時の地域サービス
         K町ではNIKONIKO館において学童保育が行われているが、3年前から障害児の受け入れも可能になり、H児もNIKONIKO館での学童保育に通っている。また、障害児への理解と対応について共通理解を図るために、学童保育のスタッフと保健師、教員、療育専門員、発達相談員とが一同に会し、ケースカンファレンスを行い、具体的な対応についてケースごとに検討してきている。

      (6) 障害児就学指導委員会への参加
         K町教育委員会からの要望で、発達的な問題のある子どもの関係者(医療関係者、発達相談員、療育専門家など)が就学指導委員会に参加し、関係者の意見・助言を参考にした個別教育支援計画が可能になってきている。H児については就学前と各学年時に行っている。


  3. H児の発達的変化と発達支援の経過について
       図2(略)はH児の生後4ヵ月時から7歳時までに実施した、新版K式発達検査の発達年齢の変化と支援の経過である。発達年齢の変化から見ると、認知・適応領域の発達が他の領域よりはよく、乳幼児期においては姿勢・運動領域の遅れが目立っていたが、整肢療護園での指導もあり7歳の時点では上昇をみせた。また、検査課題や行動観察からみると、集団保育によるコミュニケーション能力ののびと個別指導による学習に対する意欲・関心が育っていた。H児の発達的変化には、さまざまな療育・サービスと認知特性や行動特徴を把握したうえでの対応が発達支援に有意義であったと考える。
(以下略)

(2006年4月)



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