ウイリアムズ症候群一例の長期認知・神経心理学的発達過程
森 寿子
北海道医療大学真理学部 言語聴覚療法学科
神経心理学 第20巻 第4号(2004年12月) 278ページ
【目的】
ウイリアムズ症候群[以下WS]で出現する特異的認知障害が、WS特有の臨床像として固定する年齢を発達的視点から検討した。
【対象と方法】
症例T・A、1歳6ヶ月時にWSと診断。初診時の1歳9ヶ月から8歳10ヶ月まで言語指導を行い、初診時・3歳・6歳・8歳6ヶ月時に発達検査、知能検査、読解読書能力検査を施行し、その結果から発達上の問題点を検討した。
【結果】
- 発達:遠城寺式で初診時には軽度発達遅滞、3〜6歳では正常、8歳6ヶ月時には境界域の発達(手と足の運動機能の遅滞が著名)であった。
- 知能:
@大脇式と田中ビネー式は1歳9ヵ月時には共に測定不能。3歳では両検査は正常。6歳では大脇式[非言語性]は境界線・田中ビネー式は正常。8歳6ヶ月では大脇式は軽度遅滞・田中ビネー式は正常となった。
AWISC-V:7歳7ヶ月時のPIQは軽度遅滞・VIQは境界線、8歳9ヵ月時のPIQは軽度遅滞、VIPは正常で、発達と共にPIQとVIPとの差が著名となった。
- 読む能力:全般的遅滞傾向を示した。
【考察と結語】
発達の初期には遅れが見られても、早期の訓練で3歳〜6歳頃まではほぼ正常な発達経路を辿り、7歳頃よりWS特有の認知障害が表面化し始め、8歳6ヶ月ではその認知障害がほぼ固定する結果であった。以上の経過より、脳の可塑性を考慮して訓練すればWSの認知障害を有する程度は予防できるが、9歳頃よりはWS特有の認知障害はほぼ固定する可能性が高いことが示唆された。
(2006年9月)
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