Williams症候群の知見からの学習障害児指導法のヒント



中村みほ 愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所
小児科臨床 Vol.61 No.12 2008 229-234



U.対応について

@症状としてどのような所見があるかを確認する。

WISCなどの知能検査、図1,2,3で示した模写課題、言語発達検査、フロスティック視知覚記銘検査、K-ABCの認知処理過程などとともに、絵や字の作品やドリルなど、なるべき多くの情報を集め、視覚認知背側経路の障害を念頭におきつつ得意、不得意の領域に着目して苑症状を検討する。可能ならその他の神経心理学的検査(BentonのBlock construction test、Facial recognition testなど)なども加えるとよい。K-ABCは評価点のギャップを一目瞭然に表示できることが多く、保護者や教師や周囲の大人の理解を得やすい。認知能力のギャップが大きい疾患であることを周囲にまずしっかり理解していただくことが重要である。極端な能力のギャップ、特に流暢な言語のために、他の領域ができないことが理解されにくく、「サボっているのではないか」という誤解すら受けることがある。またその逆の誤解もありうる。ギャップが存在することを理解して児に接することが彼らの自尊心の維持のためにも適正な療育のためにも重要な第一歩であると考える。

A @で確認した得意不得意領域のうち、得意な領域(多くの場合は聴覚にかかわる機能や視覚認知腹側経路)の機能で不得意な領域(多くの場合は視覚認知背側経路)を補う方法を工夫する。

視覚認知に関して言えば、前述の点の間を結ぶ線を模写する課題で、点を彩色することにより課題の遂行が可能になったことは、苦手な背側経路の機能に対し、色の認知という腹側経路の機能による補完が奏効した例といえる。

日常のケアにおいても、幼児に対し、物を置く場所を指示する際、「棚の上」とか、「真ん中のフック」といっても、上下、左右、真ん中などの位置関係とそれを表す言葉がわかりにくく戸惑うことがある。代わりに「赤いかごにおいて頂戴」とか「ライオンのマークのところにかけて」というほうが通じやすい。このように得意な機能を使って不得意な機能を補うことを念頭におくことにより、具体的対策が可能になり、親子のストレス軽減という点でも有効である。

B介入の具体的方法として、学童期において背側経路の障害に関して問題になりやすい漢字学習について例示したい。

ペケでできた四角や丸の模写ができない段階に一致して漢字模写が困難であり、それらの二次元図形の模写の改善に伴って漢字模写も可能になってくる場合が多いことは上に述べたが、困難な時期が学童期と一致すること、比較的長期間続くことのため、より有効な学習報を利用すること(得意な方法の手助けを借りて、課題に対する成果を挙げると)は児のストレスを減らすうえでも有効であり、それにより漢字の獲得が早い段階で可能となることから、学童期での早期介入は望ましいと考える。

介入法の1例として、背側経路の障害に由来する不得意な構成の能力を得意な色の認知で補う例を示す。従来の学校における一般的な学習法である、部首を覚えて構成要素を組み合わせるという方法にのっとって各パーツを練習させたり、その延長線上の方法である、それぞれの要素を色分けして認識させる方法は、効果的ではない。個々の構成要素に注意をひきつけることになり、個々の要素を組み合わせて校整することがしにくいという特性を考えるとそれを助長することになってしまうからである。むしろ、「構成のしにくさ」に配慮し、「どこに配置するか」に関して色の補助を加えることが奏効する。

また、あえて上記の方法をとらなくても、漢字ドリルのなぞりがきを何度も繰り返すことにより、部首にわけることなく「全体として」その漢字の形を覚える練習をつむことで、書字が可能になっていくという臨床的印象も持っている。

C数の概念の躓きについてparietalの障害とのかかわりのうえで興味深く、更なる解明が待たれる。過度のなれなれしさについても対人関係の発達に関連して広汎性発達障害との異同をはじめとして検討されつつある。



(2008年12月)



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