言葉以外でも、計画を立てたり、ルールや規則性を見つけだす事に困難さを持ってい
るようです。巧みに言葉をしゃべることに惑わされて、「1を聞いて10を知る」ことが
出来ないことを理解してあげないと、親も子供もストレスがたまる状況になる可能性があ
ります。
また、イギリスやフランスのウイリアムス症候群のサポート団体がこのような研究
に積極的に関っている事もわかります。
Language and Williams Syndrome: How Intact is "Intact"?
Annette Karmiloff-Smith, Julia Grant, Ioanna Berthoud, Mark Davies,Patricia Howlin, and Orlee Udwin
Child Development, April 1997, Volume 68, Number 2, Pages 246-262
神経発達遅滞を伴う稀少病であるウイリアムス症候群(WS)は、言語能力が損なわれて
いなと同時に、認知能力に重大な欠陥があることが特徴であると言われている。WSは形
態素統語ルールに対して持っている生まれつきの機能のモジュール性を示す代表的な例と
して用いられる。これに対して我々は、WSの人々が持つ、精神発達遅滞の程度から考え
て驚くほど高いレベルにある複雑な形態素統語能力は損なわれているという主張や仮説を
唱える。 この仮説に対する最初のテストは、英語を話すWSの人々に対して行った標準的
形態素統語テストによる言語理解の分析である。続いて、フランス語を話すWSの人々に
対して文法上の性別区分能力を調べるという言語表現に関する実験的研究について述べる。
比較対象群の子供達の年齢はWSの人達の言語能力から見た精神年齢より低く設定された
にもかかわらず、WSの人々(一部は成人が含まれている)は、正常な子供ならば早い時
期に自然に身に付けている形態素統語能力に関して明らかに劣っている。言語理解と言語
表現についての2つの研究の結果は、WSの人々の文章の理解能力および形態素統語能力
が損なわれていないという記述と矛盾する。文章の中の幾つかの単語に文法上の性別を割
り当てること、及び埋め込み文の意味を理解できないこと(2つの重要な言語能力)とい
う同じ領域内の機能の分離があることは、ウイリアムス症候群には言語能力が独立して損
なわれずに残っているという指摘を考え直す必要があることを示している。結論として、
ウイリアムス症候群の言語は通常の習得方法とは違った経路をたどっており、外国語を習
うことに似ていることを示している。
本文の要約
1)英語を話すWSの人々に対して行った標準的形態素統語テスト
実年齢 | 精神年齢(語彙) | 精神年齢(構文) | 平均IQ | |
---|---|---|---|---|
WS | 15.9 | 7.3 | 6.8 | 57 |
正常 | 5.1 | 5.9 | 5.5 | 108 |
テストは物や動物をの名前を示す名詞の性別に関するものである。フランス語の名
詞は全て、男性名詞と女性名詞に分類される。その名詞の性別によって、用いられる冠詞
や形容詞の語尾が変化し、その語尾の違いによって名詞の性別を判断できる。名詞そのも
のの語尾によってもある程度女性名詞か男性名詞かの区別はわかるが、例外もたくさんあ
り、基本的に名詞ひとつひとつの性別を覚えることが必要である。テストに使われた物や
動物には、実在するのも、テストのために作られた架空のものがあり、それぞれ名詞の語
尾の変化が性別をそのまま表しているものと、逆の性別を示すものの4種類が選ばれた。
被験者は一度冠詞付きの名詞の発音を聞かされてたあと(つまり、性別に関する手掛かり
を与えられ)それを繰り返して正しく発音するように求められる。そのあと、カードを使
って再びその名詞に冠詞と形容詞(色)を付けて発音するように求められる。その際、正
しく性別を述べられたかどうかが調査された。テスト結果は、4種類の名詞に関してすべ
て、WSの人のほうが成績が悪かった。名詞の語尾が性別を示さないほうが、また架空の
名詞の方が成績がわるく、両方が重なった場合、WSの人のテスト結果はほとんど適当に
性別を決めた場合と同じである。ただし、架空の名詞の発音をオウム返しにくり返しすテ
ストに関してのみ、WSの子供のほうが圧倒的に間違いが少なかった。また、このオウム
返しに繰り返すテスト時の反応には、両群で大きな違いが見られた。正常な子供達は、聞
かされた単語と似た言葉(存在する物)を発音したり、「***はどういうものなの」と
いう質問をするが、WSの人にはそのような反応は見られない。
このテストでWSの人の結果が悪かった原因について、短期記憶能力には問題がな
いことがわかっている(架空の名詞をちゃんと繰り返して発音できること、また別のテス
トでは11語を間違いなく暗唱できることから)ので、記憶力の問題ではない。どうやら、
文章の中に埋めこまれているいろいろな手掛かり(冠詞や形容詞の語尾、名詞の語尾)な
どを使ってその名詞の性別をさぐりだすという能力が劣っていると考えられる。いろいろ
な例(冠詞と実在する名詞の組み合わせ)を聞いて、そのまま機械的に記憶する能力は優
れている。これは先程のテストの中で実在する物や動物に関する成績が良かったことから
もそれがわかる。WSの子供や成人には言語以外でもこの傾向がある。例えば共同作業は
非常に上手なのに、計画を作ったり理論を組み立てたりということは非常に苦手である。
このように機械的な丸暗記は得意だが、その中から規則を導き出す事が苦手だということ
は、WSの子供の喋り始める時期が遅い事の理由になる可能性もある。これは、外国語を
学ぶ場合の問題と共通のものである。