ウィリアムズ症候群における発語前コミュニケーション能力



Pre-Verbal Communication Skills in Infants with Williams Syndrome

Emma Laing(1, George Butterworth(2, Marisa Gsodl(1, Elena Longhi(1, Georgia Panagotaki(2 & Annette Karmiloff-Smith(1
1) Neurocognitive Development Unit, Institute of Child Health, London, UK
2) School of Cognitive and Computing Science, University of Sussex, UK
"Program and Abstracts" of 8th International Professional Conference On Williams Syndrome, Page 54

青年や成人のウィリアムズ症候群患者は、自身の非言語的能力や同程度のIQを持つ他の症 候群患者に比べて不釣合いに良い言語能力を有している。しかし、幼児のウィリアムズ症 候群患者は発語や言語の初期発達がかなり遅れる。つまり発語が遅れる理由の一つとして 発語前のコミュニケーション能力が損なわれているかどうかを調べることが重要である。 このような障害の発見につながる手がかりは、Bertrand, Mervis, Rice, Anderson(1993) らによる小人数のウィリアムズ症候群の幼児を対象とした研究から得られた。彼らの研究 結果によれば、ウィリアムズ症候群の幼児には次のような特異な発達傾向がある。すなわ ち、1)物体より顔に多くの注意を向ける、2)指差し(referential pointing)が発語 より前には見られず遅れる傾向にある。一方、正常な発達においては注意連結能力(joint attention skill)と指差しとそれに続く言語発達の間に強い相関が見られる。そのため、 ウィリアムズ症候群の幼児がどのような発達パターンを見せるかを調査することが重要で ある。研究1では、17ヶ月から45ヶ月のウィリアムズ症候群の幼児16人に対して初期社 会的コミュニケーション尺度(Early Social Communication Scales(Mundy & Hogan 1996)) を用いた検査を行った。この検査では次のような3種類の発語前コミュニケーション能力 を測定する。社会的相互作用(social interaction、例:社会的参照(social referencing))、 注意連結、要求(requesting)である。この研究の目的は次に掲げる3つである。1)ウィ リアムズ症候群の幼児が持つこれらの能力を精神年齢が一致する対照群と比較検討するこ と、2)発語前コミュニケーション能力とマッカーサーコミュニケーション発達検査 (MacArthur Communication Development Inventory)で評価した言語発達レベルの関係を調 査すること、3)ウィリアムズ症候群の幼児が物体より顔に多くの注意を向けるという仮 説を検証すること、である。驚くべきことに、ウィリアムズ症候群の成人にはよく見られ る社会的参照を、ウィリアムズ症候群の幼児は対照群と比較して表出する頻度が少ない。 検査結果に関して、それぞれ特有の障害パターンを有する他の症候群(自閉症とダウン症候 群)と比較分析を行った。研究2では、前述と同じウィリアムズ症候群の幼児及び対照群で ある被験者に対して、指差しの理解と表出に関する調査を行った。指差しの評価は、健常 児を対象として設計されたButterworthら(1997)の方法を用いた。この手法によれば、子 どもたちは縦横の碁盤目状に置かれた人形を見せられる。この人形は実験者によって操作 され発話を行う。試行の半分(指差しの理解)においては、実験者が特定の人形を指差し、 被験者が正しく人形を見つめた程度を記録する。残る半分の試行(指差しの表出)は、動き だして話しかけた一つの人形に対する子どもの指差し行動と社会的参照を記録する。この 実験の目的は、1)正確な指差し行動とその理解レベルを評価すること、2)これらの能 力と言語能力の相関を評価することである。実験結果から、ウィリアムズ症候群の幼児は 対照群と比較して指差し行動も社会的参照も発現頻度が少ないが、理解能力は同等である ことが判明した。検査結果を完全に分析すれば、ウィリアムズ症候群における発語前コミ ュニケーションから言語に至る過程が発達遅延を呈しているのか発達異常であるのかの関 する正しい認識を得られるであろう。

(2001年4月)



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