ウィリアムズ症候群における視覚認知機能の発達とそのつまずき -漢字書字との関連-



愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所 中村みほ
厚生労働省精神・神経疾患研究委託費(19指−8)
神経学的基盤に基づく特異的発達障害の診断・治療ガイドライン策定に関する研究
平成19年度 研究班会議 抄録集(平成19年11月26日、27日)
会場:国立精神・神経センター 研究所3号館1 階セミナー室
主任研究者 稲垣 真澄

ウィリアムズ症候群は認知能力のばらつきが大きいことが知られており、表出言語、音楽など聴覚にかかわる機能が比較的得意であるとされるのに対し、視空間認知の能力が劣ることがその特徴として挙げられている。視空間認知は視覚認知の中でも背側経路にかかわる機能であるとされ、比較的保たれている腹側経路にかかわる機能(物の形、顔、色の認知)との対比において注目を集めている。

本研究においては、背側経路の障害の本態により迫るため、これまでのウィリアムズ症候群患者に対する縦断的な臨床的観察をまとめることにより、”catch up する機能“ と”catch up しない機能“を明確にし、本症候群患者が継続的に持つ障害が何かをより狭めるべく検討を行った。これにより脳機能における責任領域を狭めるとともに介入法へのヒントを得ることをめざしている。

従来、ウィリアムズ症候群は平面の図形においても、その細かい構成要素には着目し模写が可能であるが、大まかな形を捉えて模写することが苦手であり(local tendency)、その傾向が漢字模写にも影響していることが、報告されている。しかしながら今回の検討で、平面図形の模写は経時的な改善が認められること、それに伴い漢字模写課題にも改善を認めることなどが明らかとなった。また、経過の中で、一時的にglobal tendency(細かい構成要素よりも大まかな形に着目する傾向)を示す、一例もみとめた。一方、3次元図形の模写に関しては必ずしも改善を認めず、特に、立方体の透視図においては全例で改善を認めなかった。また、Benton block test, Yerkes block test などにおいても特徴的なつまずきを示した。

以上、local tendency の障害としてでは必ずしも本症候群の病態を説明しきれないこと、本症候群における視空間認知障害として少なくとも参加者の現時点までの発達において改善されにくい項目として、3次元の認知にかかわる問題があることが明らかとなった。今後の病態解明への研究方向も含め考案を加えたい

(2008年1月)



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