ウィリアムズ症候群の子どもの言語と読み書き能力の発達



Language and Literacy Development of children with Williams syndrome.

Carolyn B. Mervis, PhD
“Heart to Heart” October 2009, 6-11ページ

ウィリアムズ症候群の子どもたちには、言語と読字能力の両方において大きな個人差があることが知られている。しかし、集団としては、この症候群の子どもたちは、具体的な語彙や音韻処理(一単語読字との関連が強い言語能力)に比較的優れている一方、関連概念、文法理解力、言語ワーキングメモリー、理解状況の把握、言葉による思想の伝達(読取理解力に関連が強い言語能力)が比較的劣っているという一貫したパターンを示す。

フォニックス(systematic phonics approach)で読字の教育を受けたウィリアムズ症候群の子どもは、単語学習法(whole word approach)で勉強した子どもより、単語分解や理解力に優れている。正常な発達をしている子どもたちの読字発達に関して知られているこれらのパターンを検証することが、ウィリアムズ症候群の子どもたちの読字発達の手助けにつながる。

ウィリアムズ症候群の人の大部分(〜95%)は同じ遺伝子群が欠失している。この欠失を「標準的」とよぶ。同じ欠失があるにもかかわらず、ウィリアムズ症候群の人たちの言語能力や非言語的推論能力は一般人と同じ程度のばらつきがあり、多くの標準的評価用検査において標準偏差は約15である(Mervis and Morris, 2007)。この事実があるので、読字能力にも大きなばらつきがあっても驚くには当たらない。私の研究に参加した標準的な欠失をもつウィリアムズ症候群の成人群には、まったく字が読めない人が数人含まれている一方で、一人の女性の単語分解や理解力は大学に入学可能なレベルだった。

標準的な欠失をもつウィリアムズ症候群の子どもたちの被験者の場合、まったく字が読めない子から、年齢相当の単語分解や理解力を有する子どもまでいた。ウェクスラー個人到達能力検査II(Wechsler Individual Achievement Test-II:WAIT-II;Wechsler, 2005)による複合標準読字能力スコアで測定したウィリアムズ症候群の子どもや成人の平均総合読字能力は軽度知的障害の範囲であった(Becerra, John, Peregrine, & Mervis, 2008)。標準偏差は>15であり、一般人よりばらつきが大きいことを示している。このようなばらつきがあるにもかかわらず、両親たちと学校における子どもに関する心配事を話しあってみると、ある共通的なテーマが出る。すなわち、自分たちの子どもが、字を読めない場合でも、同年齢の子どもと同じ程度に読める場合でも、子どもの読字能力を高めることが教育における最優先課題である。上手に学校生活を送ることだけではなく、成人した後に仕事で成功する可能性を高め、一生を通じて価値ある余暇を過すために、読解力が重要だと両親は考えている。

幅広い言語能力

正常な発達をしている子どもたちの読字発達に関して知られている幅広い言語能力には、意味、文法、後段言語学(meta-linguistics)、思想伝達レベル技能、言語記憶などを含む。

意味

具象的(concrete)語彙

ウィリアムズ症候群の患者においては、具象的語彙が常に言語能力における最も優れた能力であると報告されている。ウィリアムズ症候群に関するごく初期の論文から現在のものに至るまで、ピーボディ絵画語彙試験(Peabody Picture Vocabulary Test:PPVT)が、どのような標準的な評価においても最も良い成績を示している。2007年に4歳から46歳のウィリアムズ症候群患者88人に対して実施した研究によれば、PPVT-4の成績は大部分(82%)が正常範囲(≧70)にあり、6%は一般人の平均より高かった(≧100)。同じ88人の被験者に表現語彙試験2(Expressive Vocabulary Tesst-2)を実施したところ、被験者の大部分(82%)は基準スコアで70かそれ以上の成績を示し、10%は基準スコア100以上を示した。

相関的(relational)語彙、概念的(conceptual)語彙

相関語彙あるいは概念的語彙には、基本相関的概念(例:空間的、時勢的、量的、次元的要素)と接続詞や隣接的接続詞などの高次相関的概念(例:・・と、けれども、・・・も・・もない)などを含む。ウィリアムズ症候群の患者の具象的語彙に関する成績とは顕著に対照的であるが、相関的語彙に関するテストの成績は非常に悪い。相関的概念テスト(Test of Relational Concept:TRC)の成績は、ウィリアムズ症候群の認知的プロフィールにおいて特徴的な弱点であるパターン構築弁別能力検査サブテスト(Differential Ability Scales Pattern Construction subtest)と同じくらい低い(Mervis et al., 2000)。

文法

文法理解テスト(The Test for Reception of Grammar:TROG-2)のような文法能力の評価によって、簡単な肯定文から埋め込み句を含む文章までの幅広い文構造に関する理解力を測定できる。ここでも、ウィリアムズ症候群の患者にはかなりのばらつきがみられる。ウィリアムズ症候群の患者の中には、同年代の一般人と同程度の文法理解能力を有している人もいる。しかし、多くのウィリアムズ症候群患者は文法理解、特に複雑な文章構造においてかなりの障害がある。

後段言語学

後段言語学は意識的に言語の各要素を取り扱う能力のことを示しており、音素・単語・文章(統語的構造)などが対象である。読字能力に密接に関連している後段言語学能力は、音素認識能力(phonological awareness)と理解状況監視能力(comprehension monitoring)である。

音素認識能力

弁別能力尺度U(The Differential Ability Scale -II)には、5歳から12歳向けに標準化された音素処理に関する追補下位テストが含まれており、音素認識能力を測定できる。4種類の能力が検査できる。すなわち、押韻、混合、削除、音素同定と単語分解である。6.03歳から12.90歳のウィリアムズ症候群の子ども55人を検査したところ、T値の平均は40.24だった。14人の子ども(25%)は一般レベルと同等(T=50)以上の成績を示した。暦年齢と音素認識能力T値の相関係数は-0.01であり、この年齢層のウィリアムズ症候群の子どもの音素認識能力は、同年代の一般の子どもに比べて、年齢の変化には追従して変わらないことを示している。この発見は、ウィリアムズ症候群の子どもの音素認識能力のばらつきが非常に大きいことを示しており、とても困難な子どもがいる一方、とても上手に認識できる子どももいる。

理解状況監視能力

理解状況監視能力には聞いたことや読んだ内容を参照する能力、そして内容を理解できたかどうかを確定し、理解できていない場合にはその状況を打開するために何をすればよいかを知っていることが含まれる。検査者の指示に基づいてウィリアムズ症候群の子どもがいくつかの絵を背景の上に置く課題を遂行する場合、指示がきちんと理解できて、必要な絵が準備されている場合は、上手に課題を遂行できる。検査者の指示が不適切な場合は課題遂行が非常に困難になる。彼らが検査者に問題があることを知らせるのは、検査時間の45%でしかない。残りの55%の時間は、正しい絵を持っていない場合でも、どの絵が正しいかを知るためには追加の情報が必要な場合でも、どれかひとつの絵を背景の上に置いた。Abbedutoらの研究(2008)によれば、ウィリアムズ症候群の子どもの成績は3歳から6歳の正常な発達をしている子どものグループと比較して顕著に成績が悪かった。検査者の要求に応えられないことが明らかな状況において、ウィリアムズ症候群の子どもに理解状況監視能力が欠けていることは、ほとんどのウィリアムズ症候群の子どもは読んだ内容を理解したかどうかを自分で把握できていないことを示唆している。さらに、たとえ自分が理解していないことに気がついたとしても、自分自身で問題を解決しようとせず、助けも求めない傾向がある。

談話・会話レベル技能(Discourse-level skills )

読書理解にとって重要であると指摘されている談話・会話レベル技能には、談話理解・談話創出・推論生成・物語構造の理解(出来事の順序を理解することを含む)・照応的参照の理解・意味を確定させるための文脈の利用などが含まれる。

正常に発達した同暦年齢の子供と比べると、ウィリアムズ症候群のグループは物語の構成要素の数が少ない、主人公の目標や動機付けに言及することが少ない、あるいは主人公の行動を目標に結びつけることが少ないなどの特徴がある。しかし、ウィリアムズ症候群のグループは他の対照群に比べて評価銘句を使う傾向が有意に高い。さらに、ウィリアムズ症候群のグループは主として関係性構築系銘句(Social Engagement devices)を使うが、対照群は主として認知推論(cognitive inference)を使う。

言語記憶(Verbal memory)

ウィリアムズ症候群患者の言語記憶能力に関する研究は言語短期記憶(Verbal short-term memory)、言語作動記憶(Verbal working memory)、音韻記憶(phonological memory)に焦点があたっている。しかし、これらの専門用語の定義には様々な違いがあるが、基本的な差異には共通概念が存在する。言語短期記憶は話された直後の内容を単語の順序そのまま(逐語的再生:verbatim recall)をすぐに保持する即時記憶(immediate memory)である。言語作動記憶は即時記憶内の要素を能動的に操作すること(場合によっては、長期記憶内の素材を即時記憶の素材に統合することを含む)を示しており、単純な逐語的再生ではない。音韻記憶は言語の音に関して即時記憶を参照することであり、通常は、その言語の音素配列ルールに従った無意味語や無意味音節の逐語的再生を用いて測定される。

言語短期記憶(Verbal short-term memory)

言語短期記憶は数字の順方向系列再生(検査者が提示した数字列をその順序を保って再生する)や項目リスト再生の初回施行などの手法で計測されます。その結果は、暦年齢や知能指数を一致させたダウン症候群や様々な原因による知的障害の患者に比べてウィリアムズ症候群患者が必ず良い成績を示します。

言語作動記憶(Verbal working memory)

ウィリアムズ症候群患者の言語作動記憶の能力は、数字の逆方向系列再生(検査者が提示した数字列を逆順序で再生する)を用いて計測されます。いくつかの研究が行われています。それらの研究によれば、ウィリアムズ症候群のグループは対照群よりも高い平均スコアを示すものの、グループ間の差は有意ではありません。ウィリアムズ症候群患者における逆方向数字系列再生で測定される作動記憶と語彙、あるいは文法能力の間に相関があることも述べられていて、特に逆方向数字系列再生範囲は受容語彙や受容文法能力と強い相関が見られます。逆方向数字系列再生と文法理解テス(TROG)成績の間の相関は、受容文法能力を一致させた正常に発達した対照群に比べてウィリアムズ症候群グループのほうが有意に高くなっています。

音韻記憶(Phonological memory)

音韻記憶(無意味つづりの再生法で測定されます)と語彙や文法的発達の間の相関も検討されています。イギリスで実施されたある研究によれば、単語との類似度が低い無意味つづり要素の再生と受容語彙能力の間には有意な相関がみられ、語彙能力を受容文法能力で調整した場合でも残ることがわかっています。そのパターンは正常に発達した4歳児の場合(Gathercole,1995)とよく似ていますが、正常に発達した5歳児のパターンとは異なっています。その異なり方は、ウィリアムズ症候群のグループが語彙を獲得する際に意味よりも記憶に多くを依存していることを示唆しています。

(以下、翻訳中)

(2009年12月、2010年1月、2月)



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